弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年3月30日

鷲たちの盟約(上)(下)

アメリカ

著者  アラン・グレン 、 出版  新潮文庫

舞台は第二次世界大戦直後のアメリカです。
 失業者がたくさんいて、ナチス・ドイツからゲシュタポが乗り込んできて、大威張りしています。知られざる不気味なアメリカ社会が描かれています。アカ攻撃が激しくなり、ハーバード大学の教授も職場から追放され、貧しい下宿人です。
 そして、主人公の警察官の自宅がいつのまにか地下鉄道の「駅」になっています。夫である警察官の了解なく妻が手助けをしているのです。もちろん、南北戦争のときの地下鉄道ではありませんから、脱走した黒人を北部に逃亡させるというのではありません。政府ににらまれた人々をカナダへ逃亡させようというのです。警察官の兄は労働組合の結成をはかろうとして逮捕され、強制収容所に入れられています。
 戦中に日系人の強制的収容所があったことは知っていましたが、労働組合活動家などを入れる強制収容所がアメリカにあったというのは、私には初耳でした。本当のことなのでしょうか・・・。
 まだ、アメリカはドイツと宣戦布告していません。ドイツとソ連がスターリングラードで市街戦をたたかっているという時代です。FBIがナチス・ドイツゲシュタポに協力して動いています。信じられませんが、これは恐らく本当のことなのでしょう。FBIの長官がフーバーだったころのことです。日頃はゲイを口汚くののしっていながら、実は自らゲイだったというフーバー長官です。
 ナチス・ドイツが逮捕・収容していたユダヤ人をアメリカ政府が買い受け、強制収容所でひそかに働かせていたという話が登場します。本当にそんなことがあったのでしょうか・・・。アメリカの闇世界ですね、これは。シカも、そこで働くユダヤ人は、ヨーロッパで抹殺されるよりも良いと満足していたと言います。
 アメリカは今カネを必要としている。アメリカは10年以上、この大恐慌から抜け出せずにいる。そういうときに、あのユダヤ人たちの労働力が輸出で稼いでいる。
 ナチスはユダヤ人なきヨーロッパを手に入れ、アメリカは格安の労働力を手に入れたのだった。
 下巻にたどり着き、その解説を読んで、ようやく、この本が歴史的事実をふまえつつ、それを改案した小説だということを知り、安心もしました。なんだ、なんだ、そういうことだったのか・・・。すっかりだまされてしまいました。人騒がせな小説です。
(2012年11月刊。1500円+税)

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