弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年3月25日

孤独なバッタが群れるとき

生き物

著者  前野 ウルド 浩太郎 、 出版  東海大学出版会

あれ、この著者は日本人なのかしらん。どこの人だろう・・・。
 なんと著者は生粋の日本人。それも、なまりのたっぷりある秋田県民です。では、ウルドとは何か。ウルドとは、アフリカはモーリタニアで最高敬意のミドルネーム。「~の子孫」という意味。モーリタニアに住みついてサバクトビバッタ研究に人生を捧げると宣言したところ、そこの研究所長から命名されたのでした。それほどサバクトビバッタ研究に明け暮れる著者の涙ぐましい奮戦記です。面白くないはずがありません。
 いやはや、学者って、こんなに大変なんだと、私は何回もため息をついたほどです。でも、それだけに目に見える成果を得たときの喜びは一入(ひとしお)のようです。
 バッタとイナゴの定義は混沌としていて、両者を明確に区別するのは難しい。
サバクトビバッタは、サハラ砂漠などに生息しているバッタ。成虫は2グラムほど。自分と同じ体重に近い量の新鮮な草を食べる。だから、1トンのバッタは1日に2500人分の食糧と同じ量だけ消費する計算になる。
飛翔能力が高く、1日に5~130キロほど移動する。通常は30ヶ国に分布しているが、大発生時にはサバクトビバッタによる被害は60ヶ国に及ぶ。それは地球上の陸地面積の20%になる。
 サバクトビバッタを殺すために殺虫剤をつかうと、すべての生命が沈黙してしまう。そして人間の健康まで脅かす。そこで、サバクトビバッタの生態を知って対策を立てる必要があるわけです。アフリカでの研究はあまりすすんでいないようで、日本人の学者が活躍する余地があるのでした。
 バッタの孤独相は、カメレオンのような能力をもっていて、生育環境の背景に似た体色を発色させることができる。
 バッタは、体内のホルモンを巧みに操ることでダイナミックな変身を遂げている。
 サバクトビバッタは敵に体をつかまれると、口から醤油のような茶色の液体を吐き出す。これは胃のなかにため込んでいた植物由来の毒だ。手についてもなんともないが、きわめて不快だ。服につくとシミになる。
 バッタが悪魔になるのは群生しているから。では、どうやって混みあいを認識するのか。視覚か臭いか、接触のどれか。結局、接触だということが判明した。メス成虫は、他個体と直接ぶつかりあうことで混み合いを認識していることが分かった。
 そして、触覚が接触刺激の感受部位であることが判明した。
 バッタの触覚を切除してその結果を対比させていくのです。そのときには、バッタの目をみえなくする必要がありました。バッタの複眼に修正液を塗り、その上をマニキュアで塗りつぶすのです。残酷といえば残酷な実験ではあります。でも、いたしかたありません。悪魔由来(その誕生秘話)を調べるために欠かせないものなんです。
 メス成虫は、大きな卵をうむのに混みあいと光の両方が必要である。
 まだ33歳の若手研究者です。こんな元気な日本人男性がいて、大いに安心しました。今もサハラ砂漠で研究中のようですが、健康に気をつけていただき、ますますのご健闘を期待します。
(2013年1月刊。2000円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー