弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2013年3月22日
ライファーズ
アメリカ
著者 坂上 香 、 出版 みみず書房
私は見ていませんが、『ライファーズ』という映画があるそうです。
ライファーズとは、無期拘禁刑渡河された受刑者のこと。2種類の無期刑がある。仮釈放のない絶対終身刑(LWOP)と、もう一つは仮釈放の可能性が残されたもの(LWP)。2002年には全米で12万のライファーズがいた。LWDPはその4分の1の3万人ほど。10年後の2011年にはライファーズは15万人に増えたものの、LWOPは4万人で、あまり増えてはいない。カリフォルニア州は全米でもっともライファーズが多く、2011年に3万2000人、全米の受刑者の2割にあたる。LWOPも4000人いる。
仮釈放があるといっても、現実に釈放されるライファーズは極端に少ない。
この本は、そんなライファーズの回復・立ち直りを支援する地道な取り組みを紹介しています。
アメリカでは「犯罪には厳しく」というスローガンのもと、1970年代半ばから厳罰化政策がうち出され、それが1980年代から90年代にかけての刑務所ブームともいえる状況を生み出した。1970年代半ばから顕著になった福祉「改革」と自己責任論、それらの結果として貧困層の犯罪化がある。
「産獄(産業と刑務所)複合体」という用語まである。民間企業と国家が安全な労働確保するために、厳罰化政策を拡大した。アスベスト除去や炎天下での雑草除去作業などを刑務所が請け負うが、受刑者には最低賃金すら支払われなかったりする。有名ブランドの多くも、刑務所の安価な労働力をつかって法外な利益をあげている。
1990年代半ば、刑務所の建設ラッシュとなった。1990年からの10年間で245もの刑務所、年平均で25件ほどが新設された。そして、アメリカは「監獄大国」となった、拘禁されている人は230万人。人口比では人口10万人あたり750人。日本は、その12分の1の60人ほど。しかも、保護観察や仮釈放中の人間を含めると720万人にも膨れあがる。これはスイスの全人口に匹敵する。
カリフォルニア州は監獄化のトップランナーである。2008年度の受刑者数は全米トップの17万3000人であり、テキサス州に次いで2倍だった。カリフォルニア州の矯正予算は教育予算を大幅に上回り、刑務所の職員は6万6000人である。
過去30年間のうち、刑務所の数は3倍に増えた。ただし、監獄人口が激増しているからといって、犯罪も激増しているわけではない。1960年から1990年までの30年間の犯罪率は、フィンランド・ドイツ・アメリカの順番ですすんでいった。
アメリカで刑務所人口が4倍に増えたといっても、アメリカの刑務所人口がもっとも顕著だった1980年代、犯罪の発生率は25%も低下した。
受刑者の立ち直りのためにライファーズの力を借りた。終身刑のライファーズは刑務所というコミュニティで大きな影響力をもつ。
母親が父親が刑務所に服役中の受刑者の子どもが、アメリカには少なくとも190万人から230万人はいる。その大半が10歳以下で、アメリカの43人の子どもに一人もしくは、
2.3%の子どもの親が刑務所に服役中の受刑者だ。
刑務所問題は、受刑者本人の問題だけではなく、子どもの福祉に大きく関わってくる。さらに受刑者の3分の2あまりが非白人であることから、マイノリティにとって切実な問題であることが分かる。アフリカ系の子どもでは15人に1人、ラテン系では42人に1人、白人は111人に1人である。受刑者の子どもが共通して体験することとしては、経済的・物理的・精神的に不安定な生育環境、犯罪者の子どもという恥の意識、拒絶感、社会的・組織的偏見、サバイバーブバルト、虐待、親族への依存と負担、学業の不振や素行の問題があげられる。親が死刑囚の場合には、さらに深刻だ。
アメリカの刑務所には、刑務所の掟と呼ばれる暗黙のルールが存在する。人種別のギャングが受刑者の生活を仕切っているため、人種が違えば「敵」になる。外のギャングと刑務所内はつながっていて、刑務所内の動きは外にも影響を及ぼす。その逆もまた、しかり、服役前にはギャングに所属していなかった者も、刑務所暮らしを生き延びるために巻き込まれてしまうことが多い。
日本の刑務所では、受刑者同士が自由に言葉を交わしたり、触れあうことが許されていない。誕生日も例外ではない。ひと言も言葉をかわすことなく、前を向いて黙々と誕生日の食事をとる。
アメリカの更生施設では、日常的に恥や屈辱的な思いをさせることは人を卑屈にさせ、人間的成長の妨げになると考えられている。罪に向きあうためにも日常的な会話や語りが奨励され、受刑者を孤立させない工夫が随所にあった。日本の刑務所とは正反対のアプローチである。
男性刑務所のなか、しかも重罪を犯した粗暴犯のいる場に、普段着の女性があたり前のようにしていて、受刑者と談笑し、受刑者のグループに混じって話をする。このように、アミティは、女性を積極的に雇用する。管理職に占める女性の割合も高い。
自分の心を開いていくこと、それをどうやっていくのか、真剣な試みがアメリカでも続いていることがよく分かりました。受刑者の大半がいずれ社会に出てくることを考えたとき、このような取り組みが本当に必要だと、長く弁護士をしていて痛感します。
(2012年8月刊。2600円+税)