弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年3月21日

秘密戦争の司令官、オバマ

アメリカ

著者  菅原 出 、 出版  並木書房

最新のアメリカ映画『ゼロ・ダーク・サーティー』はオサマ・ビン・ラディンをCIAが暗殺するまでを描いています。そして、その前に、CIAは『三重スパイ』の自爆テロ攻撃によって大打撃を受けていたのでした。
 この本は、それらすべてがオバマ大統領の指示によるものいうこと明らかにしています。これではノーベル平和賞が泣きますよね。
 2011年5月2日、オバマ大統領は米軍特攻部隊シールズをパキスタンに送り込み、オサマ・ビン・ラディンを暗殺した。そして、このビン・ラディン殺害はオバマ大統領の4年間の外交・安全保障政策のなかで、最大の実績と位置づけられている。
ええーっ、他国の実権を侵害して、裁判にかけることもなく敵対する政治家を暗殺したのが「最大の実績」だなんて、悲しすぎますよね。
 ソフトなイメージとは裏腹に、オバマ大統領は、ブッシュ政権時代に始まった多くの政策を引き継ぎ、さらに攻撃的に拡大・発展させた。とりわけ、ブッシュ政権時代に始まった秘密工作のプログラムを劇的に拡大して、「秘密の戦争」をエスカレートさせた。
オバマ大統領は、イラクからアメリカ軍部隊を撤退させ、アフガニスタンからも正規軍も撤収する一方で、無人機をつかった暗殺作戦、特殊部隊をつかったテロリスト掃討作戦、そしてサバイバー攻撃による敵の重要施設の破壊・妨害工作を激化させた。「オバマの戦争」は、私たちの目の届かないところで、秘密裏に、そして激しく展開されている。
ビン・ラディン暗殺計画の中でアメリカ側が心配したのは、屋敷内に地下の秘密シェルターがあることだった。この心配があるため、上空から爆弾を落とすという作戦はとれなかった。
 なーるほど、と思いました。映画では、その点はカットされています。
アフガニスタン政権の腐敗はとてつもない。カルザイ政権の腐敗は上から下まで、あまりにひどくて、行政機構は機能していない。だから、国民はまったく政府を信頼していない。
 アメリカは、そんなカルザイ政権に対して巨額の援助を今なお続けているのです。自らの利益があるからに他なりません。
 オバマ政権の高官たちを悩ませたもっとも深刻な問題の一つがカルザイ政権の正当性の低さだった。つまり、アフガニスタン国民のカルザイ大統領への支持の低さである。
 カルザイ政権の腐敗は生半可なレベルではなかった。カルザイ政権の腐敗がひどすぎるため、何の条件も付けずにアメリカ軍を増派して、支援を強化してもムダだと考えられた。
 2007年から、少なくとも30億ドルの現金がスーツケースや箱に入れられてカブール国際空港から国外に持ち出された。
 2009年12月30日、アフガニスタン東部にあるCIA基地で自爆テロが発生し、7人のCIA要員ほかが死亡した。アメリカの諜報史上に残る大惨事だった。これは『三重スパイ』で描かれた事件です。
 当時のCIAのパネッタ長官は、この自爆テロ事件について、「アルカイダとの戦いが本当に戦争だと思い知った」と回想している。
 腐敗したカルザイ政権であっても、カルザイ大統領に居直られてしまえば、オバマ大統領としては打つ手がなくなってしまう。このことをカルザイ大統領は十分に見透かしていた。カルザイ大統領の弟ワリ・カルザイはカンダハル州議会議長をつとめていたが、実際には「キング・オブ・カルザイ」と呼ばれ、カンダハル政権の「腐敗の総元締め」とみられていた。「カルザイ政権の腐敗」をもっとも具現化した人物がワリ・カルザイだった。
 カルザイ大統領の警備車両は58台だ。王宮を要塞化し、そこまでしないとわが身を守れない人が大統領をやっている。
 無人機「プレデター」によるミサイル攻撃は、ブッシュ政権は2008年にパキスタン領内へ38回おこなった。オバマ政権によってからは、2009年に55回、2010年は3ヵ月だけで22回だった。12月30日のCIA基地の自爆テロ攻撃の直後の3週間のみで12回というハイペースでミサイル攻撃を行った。
いま、オバマ政権がやっていることは、1980年代にソ連がやったこととまったく同じだ。
 CIAのなかで対テロセンター(CTC)のスタッフが急増している。9.11当時は300人ほどだったのが、今や2000人のスタッフを擁している。CIA全体の1割だ。CIAの分析官の35%が軍隊作戦を支援するための分析作業に従事している。
 2012年5月1日、オバマ大統領はアフガニスタンを電撃訪問し、カルザイ大統領と会談した。しかし、夜の10時過ぎに訪問し、真夜中に首脳会談と協定の調印式を、夜中のうちにアメリカに帰国した。それほどアフガニスタンの現状はアメリカにとって厳しいというわけである。事前にオバマ大統領の訪問は報道されず、「長居は無用」と立ち去った。
 タリバン側の人材供給源は無尽蔵。カルザイ大統領だって、いつ殺されるか分からない。オバマ政権には時間がないが、タリバンには時間があり、人間がいる。
 オバマの秘密戦争に勝ち目がないことははっきりしています。軍事力で他国を支配することは出来ないのです。日本国憲法の前文と9条の意義が光っています。
(2013年1月刊。1600円+税)

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