弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年3月 5日

三重スパイ

アメリカ

著者  ジョビー・ウォリック 、 出版  太田出版

アメリカ映画『ゼロ・ダーク・サーティー』をみました。深夜0時半を意味する言葉です。アメリカ軍の特殊部隊ネイビーシールズが2011年5月1日、パキスタンに潜んでいたビン・ラディン邸宅を急襲し、ビン・ラディンを殺害した事件が映画化されたというので、さっそくみてきました。
 アメリカという国は、本当に野蛮な国だとつくづく思います。よその国の主権を踏みにじっても一向に平気なのです。しかし、それにしてもアメリカのすごいところは、いわばアメリカの恥部が堂々と映画化されるところです。CIAの女性調査官がCIAから裏切られ、CIAとたたかう話も映画化されました(『フェア・ゲーム』)し、FBIの捜査官が実はソ連のスパイをしていた(『アメリカを売った男』)というのも映画になりました。
 それはともかく、この『ゼロ・ダーク・サーティー』のなかに、2009年12月30日、アフガニスタンのCIA基地でアルカイダのヨルダン人医師の自爆テロによってCIA要員7人が即死するというシーンが登場します。この事件はオバマ大統領にも大変なショックを与えたようで、この事件の後は無人機を活用するように変えたといいます。
この映画では、ビン・ラディンの所在をCIAが追いかけて10年間、何の成果も上げられなかった苦労がずっと紹介されています。アルカイダの人間を捕まえて拷問にかけるのですが、しまいには拷問したCIA要員のほうが心を病んでしまうのです。
パキスタンやアフガニスタンの町の様子が紹介されます。たくさんの人々であふれかえって活気のある町です。軍隊と兵器だけでアメリカが勝てるわけはないと確信させる映像です。無人機をつかってアルカイダの幹部を殺害したり、ビン・ラディンを殺しても、第2、第3どころか、第100、第1000、どんどん次から次に代わりの活動家が生まれることでしょう。人を殺したら、その反作用があることを一刻も早くアメリカは悟るべきだと思います。
 2時間半という長い上映時間でしたが、最後まで身を固くしてスクリーンに釘付けになりました。だから、肩がこりました。
12月30日、パキスタンのCIA基地の司令官は45歳の女性だった。それにCIA屈指のターゲッターが一緒にいた。ターゲッターとは、テロリストの隠れ場所を発見し、追跡するエキスパートで、CIA暗殺部隊に目ざすべき場所を教えるのが仕事だ。
CIAのパネッタ長官はジレンマに陥っていた。CIAのミサイルは標的を片づけていくが、それだけでは十分ではない。司令官が殺されれば、また代わりが現れる。しばしば前の者より若く、さらに過激な思想を持ち、世界に打って出る野心を燃やす司令官が登場する。アルカイダは、そうした状況に適応している。地域のさまざまな部族組織のなかでアルカイダに従おうとする者たちがネットワークを広げていく。その一方で、アルカイダの頂点に立つ指導者は、安全な隠れ場所にいて、全体の戦略を立てる。
 アフガニスタンには、CIAの資金で創設された対テロ追跡の特殊部隊がある。訓練はCIAの特殊活動部が担当する。活動領域はアフガニスタンの東半分で、兵士の数は3000人。パキスタン生まれとアフガニスタン生まれのパシュトン人の混成国なので、部族の衣装を着て国境を越えて情報収集、テロリスト容疑者の拘束・暗殺をする。
 この本で自爆テロを敢行したヨルダン人医師はCIAのスパイになったふりをしていたようです。アルカイダのほうが、この医師をCIAのスパイとしてアルカイダの上層部に食いこんでいると仕掛けていたというのですから、何事も一筋縄ではいかないということです。
 CIA基地にやって来て、アルカイダのことを教えてくれるものと思ってCIA幹部たちが16人も出迎え、7人が即死したのでした。覚悟の自爆では防ぎようもありません。
 まさしく泥沼の世界です。憎しみが憎しみを生んで、報復の連鎖が続いています。
ペシャワールでがんばっている中村悟医師のような取り組みこそ応援したいものだと思いました。
(2012年12月刊。2300円+税)

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