弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年2月25日

アリの巣をめぐる冒険

生き物

著者  丸山 宗利 、 出版  東海大学出版会

アリに限らず、昆虫を調べている学者の語る物語です。
甲虫目は、あらゆる陸上の動物のなかで最大の種数を誇る分類群で、世界に37万もの種が知られている。その大部分は5ミリメートル以下の小型種。
 昆虫のなかでも、とりわけ甲虫が大きな繁栄をとげている理由の一つに小型化がある。甲虫のもっとも重要な、特徴は、前翅を甲羅のように硬くし、後翅と腹部をおおったこと。この特徴は、水分の奪われやすい乾燥した場所や病原菌に感染しやすい加湿な場所でも体の小型化を可能にした。硬くて小さな体は、石の下や朽ち木の隙間などの隠蔽的な場所を中心に、さまざまな環境への適応を可能にし、それが現在の甲虫の繁栄につながっている。
 甲虫学者にとって作図も大切だ。手先の技術という点で、解剖の次に重要なのは作図、絵描きだ。分類学では、写真技術の発達した今なお絵描きの方が有用な手段である。その一番の利点は、利用者にとって重要な部分のみを絵に示し、また強調できること。写真では形を理解することができないことがある。まさに図は命である。百聞は一見に如かずというように、長い文章による種の区別の説明よりも、わかりやすい図が一枚あるほうが、ずっと役に立つ。なーるほど、たしかに写真だと分かりにくいことがありますよね。
 ずっと顕微鏡をのぞいていて目を悪くし、果ては片目を失明してしまった昆虫学者もいた。学者って、本当に大変なんですよね。
 ヒメサスライアリは、アリを専門に食べるアリ。ほかのアリの巣を襲って、成虫や幼虫を狩って食べる。2~5ミリの小さなアリだが、毒針をつかって、自分よりはるかに大きなアリを仕留める。そして、ヒメサスライアリは軍隊アリの仲間でもある。
 グンタイアリは、膨大な数の働きアリから成り、兵アリの顎は湾曲し、女王は巨大である。
 グンタイアリの太い行列の先は団扇のように広がり、数メートル四方がアリで埋まる。絨毯攻撃はすごい。バッタやコオロギ、ゴキブリが飛び出す。捕らえられたバッタはすぐに脚をもがれ、バラバラになってアリに運ばれる。
ヒメサスライアリは、引っ越しを見つけてから、その終了を観察するまで丸々3日かかった。おそらく100万頭以上の規模だ。
昆虫の世界も底が深いこと、学者家業も楽ではないことがよく伝わってくる本でした。
(2012年9月刊。2000円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー