弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2013年2月20日
ヒトラーの国民国家
ドイツ
著者 ゲッツ・アリー 、 出版 岩波書店
経済的側面からみた、ヒトラーとドイツ国民の「共犯関係」の歴史、というサブタイトルがついています。
この本を読むと、ヒトラー・ドイツが多くの国民の支持を集めていた理由がよく分かります。ユダヤ人の財産を奪って国家の収入とし、それを一般国民に還元していたのです。そして、対外侵略戦争によって獲得した資産もドイツ兵士が故郷の自宅へ送り、多くのドイツ国民がそれを受けとり、楽しみにしていたというのです。
1933年にナチスが政権を掌握したとき、ヨーゼフ・ゲッペルスは35歳、ラインハルト・ハイドリヒは28歳、アルベルト・シュペーアは27歳、アードルフ・アイヒマンは26歳、ヨーゼフ・メンゲレは21歳、ハインリヒ・ヒムラーとハンス・フランクは同い年の32歳だった。ヘルマン・ゲーリンクが40歳だ。
戦争の最中、ゲッペルスは、指導的面々の平均年齢はナチ党の中堅層で34歳、国家中枢で44歳。ドイツは、今日まさに、若い人々によって指導されていると言えると断言した。
多くの若いドイツ人にとって、国民社会主義・ナチズムとは、独裁、言論封殺・抑圧を意味したのではなく、解放と冒険を意味していた。若い人々は、ナチズムを青年運動の延長とみなし、肉体的・精神的な反エイジング(老化対抗)を進めるものとみていた。
1935年、ナチス党のなかで指導的な役割をしていた20代、30代は、石橋を叩いても渡らないような慎重な人間を軽蔑しながら、自らを近代的・反個人主義的な行動型人間とみなしていた。「偉大な明日は我々のもの」と信じていた。
ヒトラーは、以前から侵犯を「たいした問題ではない」としていた。たちまち、あらゆる犯罪を受け入れさせてしまう原則、すなわち、「勝ってしまえば誰もそれを問題にしない」という原則を、ヒトラーは腹心の部下から次第に国民へと拡大浸透させていった。
ナチ指導部は、国民のあいだでの自動車の普及にはじめて手をつけた。そして、それまでなじみのなかった「休暇」概念を導入して休日を倍に増やし、さらに大衆観光旅行熱の発展の先鞭をつけた。
ユダヤ人などを除く、人種的に一体と定義された大集団に数えられたドイツ人の95%の人々にとって、国内をみる限り差別は減少していった。
ナチス・ドイツの宣伝において、戦争は攻撃を続ける「世界ユダヤ人」に対する「アーリア人の抵抗」として一貫して示された。「世界ユダヤ人」とは、まず第一にユダヤ人、第二にユダヤ人の縁戚者たる金権政治家、第三にユダヤ・ボルシエヴイキという、三重の姿形をとって世界支配を追求している。
1933年、失業者600万人という状況に直面したヒトラーがドイツ国民に約束したのは、一にも二にも「職」であり、とにかく働ける場の確保ということであった。
ドイツの税収は1933年から1935年に25%、金額にして20億マルク増加した。それと並行して失業対策支出が18億マルクも減少した。このとき、軍備景気でもうけた会社を対象とする税率が20%から40%に引き上げられた。
ナチス・ドイツ国家の崩壊瀬戸際の国家財政状態を、ユダヤ人の財産没収、強制移送、大量虐殺が支えた。ユダヤ人財産の正式な国有化は1938年からであった。
ドイツの国庫は、お金を必要としていた。政府はいかなる犠牲を払ってでも、国家の破産を国民に見透かされないように躍起になった。少しでも立ち止まったら、たちまち問題は顕わになったに違いない。
ドイツの大銀行の幹部たちは、強盗の主犯として働いていたわけではない。しかし、もっとも効果的な没収手続を保障する契約者、不可欠のオルガナイザーとして機能し、さらには隠匿犯にもなった。
ドイツ軍将兵は、ヨーロッパ占領地から、何百万という小包を故郷に送った。荷受人は女性である。北アフリカ産の靴、フランス産のビロードと絹製品、ギリシア産のリキュール、コーヒー、タバコ、ロシア産の蜂蜜とベーコン、ノルウェー産の大量のにしん、ルーマニア・ハンガリーそしてイタリアからの豊かな贈り物がドイツ国内に送られてきた。ドイツの食生活の高水準で維持するため、ユダヤ人の大量殺戮が促進していった。国家の収入となった家財道具とは、絶滅収容所へ強制移送されたユダヤ人のものだった。
ナチ政権は、最初はいかがわしく、やがて犯罪的になっていく手口の財政政策を展開することによって内政への支持を獲得した。1935年、ヒトラーは国家予算を公にするのを禁止した。
恐るべき真実だと思いました。しかし、この真実から目をそらすわけにはいきません。
(2012年6月刊。8000円+税)
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