弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年2月15日

4つの「原発事故調」を比較・検証する

社会

著者  日本科学技術ジャーナリスト会議 、 出版  水曜社

3.11から2年がたち、原発の恐ろしさが風化しつつあることに身震いする思いです。
 今なお福島第一原発の核燃料がどこに、どういう状態で存在しているのか分からないうえ、大量の放射能がまき散らされているというのに、人間(日本人)って、本当に忘れっぽい存在なんですね・・・。
 でも、忘れてはいけないことは忘れてはいけないのです。それは戦争体験を絶対に忘れてはいけないのと同じです。この本は、4つの原発事故調が発表した報告書を比較・検討したものです。
 4つの報告書に共通するのは、原因の究明がはっきりしていないこと。誰が自己の責任をとるべきなのか、責任の追及が一切なされていないこと。どの事故調も、責任の追及をしていない。
 私自身は、東電の社長たちの刑事責任が問われていないようでは日本の刑事司法は死んでいるのも同然だという考えです。いくら町の万引事件を摘発したところで、巨悪が栄えたたままでは、この日本社会は救われません。東電の会長や社長が実刑(終身刑)にならないようでは、日本の司法は正義の実現なんて言う資格はないと私は本気で考えています。
 東電の事故調は、その責任者が東電副社長というだけであって、責任転嫁の羅列で一貫し、まったく期待はずれ。
 国会事故調は10人の委員とスタッフが15億円の予算を使って167人にヒアリングし、640頁の報告書をまとめた。政府の事故調は、10人の委員と40人のスタッフを使って4億円の予算で800頁の報告書をまとめた。
 放出した放射能はチェルノブイリ原発事故に及ばないが、福島第一原発はチェルノブイリとは違って、同時多発的に事故が起き、しかもチェルノブイリでは10日ほどで事態は収束したが、福島第一原発では長いあいだ放射能が放出され、収束の見通しが立たない状態が続いた。
大量の放射性物質が2号機から放出されたのは3月15日の午前7時から11時と午前1時から午後3時までの2回だった。とくに2回目の放出では、ガス状の放射性物質などが固まった放射性雲(放射性プルーム)が西方向から次第に北西方向へ流れていった。
 原子力安全委員会の斑目(まだらめ)春樹委員長は、菅直人首相(当時)の福島第一原発視察(3月12日)に同行したとき「水素爆発は起きない」と説明した。あとで、斑目氏は、「ここまで悪化するとは思っていなかった。不明を恥じる」という反省の弁を述べた。
 まさしく、デタラメな人物ですね。
今回の事故で前面に出た首相官邸は右往左往が目立った。それにもかかわらず、自民党は憲法を改正して、緊急事態には人権擁護規定を一時停止して、威厳令のように首相に権限を集中させて「乗り切ろう」というのです。まったくのごまかしですよね。
 電力業界への官僚の天下りが原子力ムラの存在を強固なものにする。電力会社と当局のもたれあいが安全規制をゆがめ、エネルギーや原子力政策を偏った方向にもっていく、一部の政治家と電力会社とのつながりも深い。さらに、学者も原子力ムラの有力な構成員だ。
 先日、九州電力の顧問3人の年間報酬が8900万円で、その取締役は35%カットで平均年収3500万円だと報道されていました。電気料金が高いのは、こんな超高額の取締役報酬のせいでもあるんですよね。生活保護の10%カットをやめて、こんな超高給取りの報酬なんて90%カットをすぐに断行したらどうでしょうか。
 国会事故調は、東電に対して、「官邸の過剰介入を責めることが許される立場にない。東電こそ混乱を招いた張本人」だとして、反省を迫った。当然の指摘ですよね。
東電が3.11事故直後に「全員撤退」を考えたのかどうかについて、本書は考えていたに違いないとしています。私も、そう思います。「官邸の勘違い」などとは、とても思えません。
(2013年1月刊。1600円+税)

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