弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2013年1月 5日
売れる作家の全技術
社会
著者 大沢 在昌 、 出版 角川書店
売れる作家のプロ作家養成講座です。作家と名乗るのは我ながら恥ずかしく、いつもモノカキと自称する私ですが、小説にも挑戦中なので、ぜひ読んでみようと思って手にとったのでした。
さすが当代有数の売れる作家の言うことは違います。含蓄のある指摘に、ついついうーんと心がうなってしまいました。同感、同感。でも、実行は難しい。トホホ・・・。ただし、『新宿鮫』などで今や大いに売れている著者も、かつては売れない作家だったのです。
23歳でデビューし、11年間、まるで本が売れなかった。28冊の本がすべて初版どまり。だから「永久初版作家」とまで呼ばれた。うへーっ、それはそれは・・・という私も、再版したのは1回のみで、あとは初版どまりで、大量の在庫は、みな知人にありがたく贈呈してしまいました。
初版4000部、定価1700円として、印税10%だとすると、作家の収入は68万円となる。半年かけて書いて68万円の収入をあげたとすると、コンビニのあるバイトよりも低い金額でしかない。うむむ、そうなんですね。現実はチョーキビシイのです。
辞書は、いつも手元に置いておく。少しでも怪しいなと思ったら辞書を引くこと。一日に最低でも4、5、6回は辞書を引いている。
著者はパソコンはではなく、手書きです。これは私と同じです。
原稿をすばやく仕上げるには、毎日、必ず決まった分量を習慣を身につけることが大切。書いた原稿を、少し時間を空けて読み返す。時間をあけることによって、あたかも他人の文章を読むように自分の文章のように読み返す。
どんなに苦しくても、決められた枚数を書ききる。それがプロ作家である。
ストーリーも大事だけど、キャラクターも大事だ。
アイデア帳をいつも身近に置いておく。何か思いついたら必ずメモをとる。私も、ポケットにはメモ帳を必ず入れています。車中にも、ペンとメモ用紙を置くようにしています。車中でひらめいたときには、交差点の赤信号で止まったとき、素早くメモします。
ストーリーが進むにつれて主人公は変化する。ストーリーが登場人物を変化させていく。この変化の過程に読者は感情移入する。これをしっかり意識して小説を書くべきだ。
私には、この点の意識が欠けていました。反省すべき点です。
小説の登場人物は論理的でなければいけないし、その論理には一貫性が要求される。
人物に過去を語らせない。回想シーンは、会話にもっていく。
ミステリーは、基礎知識のない人間が書いてはいけないジャンルだ。最低でも1000冊は読んでいないと、ミステリー賞に応募することはできない。自分の書いたものを何度でも疑う。とにかく、たくさんの本を読む。これしかない。今の作家志望者は読書量が圧倒的に不足している。
作家になるというのは、コップの水である。コップの水に読書量がどんどんたまっていって、最後にあふれ出す。それがかきたいという情熱になる。
編集者は、作家に対していろいろダメ出しするが、「こうすれば、もっと面白くなりますよ」とは言われない。それを言えるくらいなら、編集者のほうが作家になったらいい。最終的には作家の自助努力しかない。作家の作業は孤独なものである。
自分が面白いと思わなければ、面白いものは絶対に書けない。
主人公に残酷な物語は面白い。主人公が苦しめば苦しむほど、物語は面白くなる。読み終えたあと、読書の心の中にさざ波を起こすような何か、これを「トゲ」と呼ぶ。面白くするには、泣くほど考えるしかない。
漢字を使うことによって、小説の雰囲気が変わってくる。小説を読んでいるとき、人は自分の年齢を忘れている。
改行は、文章のリズムをつくるうえでの数少ないテクニックだ。
冒頭の20枚の原稿用紙こそが長編小説の「命」なのである。説明なしで、いかに主人公を印象づけるか、魅力的な主人公だと読者に思わせるが、その点をとことん考える。
アイデアの出ない人はプロになれないし、万一プロのなれたとしても、とても食べてはいけない。
ある水準以上のものを必ず出せるのが、プロの条件である。何十冊も書きつづけなければならない。一作一作が勝負の作品だ。前の作品よりもいいものを書くことを常に求められる。それがプロの世界だ。根性のない人間は生き残れない。頼まれた仕事は絶対に断ってはいけない。そして締め切りは絶対に厳守する。
本は商品である。4000部売れても、出版社はほとんどもうからない。
ある程度売れるようになったらテレビは出ないほうがいい。なぜなら、作家はどこか神秘性をもっていたほうがいいから。イメージが合わないと読者は離れていってしまう。
新人作家は、決してインターネットでの自分の評判を気にしないこと。なるほど、とても実践的なプロ養成講座でした。私もさっそくすこしばかり実践することにしましょう・・・。
(2012年7月刊。1500円+税)