弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年1月 3日

ルポ・イチエフ

社会

著者  布施 祐仁 、 出版  岩波書店

福島第一原発事故をマスコミは忘れたような気がします。でも、まだ依然として大量の放射能が出ているなかで、その後始末に大勢の労働者が働いているのです。その労働のすさまじい実情がほとんど報道されていません。この本は、その労働現場に迫っています。貴重な証言集です。
 僕らは被曝することを「食った、食った」と言う。作業が終わったあと、0.6(ミリシーベルト)も食っちゃったよ。キミは何ミリ食った・・・?
 これが原発現場で働く労働者の会話というのです。福島第一原発を「ふくいち」とも呼ぶが、原発作業員は「イチエフ」と呼ぶ。
 原発労働員の大半は日給月給の非正規雇用。
 2011年3月11日、フクイチには東電社員755人と下請け労働者5660人、合計6400人が勤務していた。
作業員が100人も並ぶ。というのも、免震重要棟に入るときには、なかに放射性物質を持ち込まないために、まず入り口でタイベックや全面マスク、ゴム手袋などを脱ぎ、そのあとに身体汚染のサーベイを担当する担当者が数人しかいないため、作業員が集中するとあっという間に行列ができてしまう。長いときは1時間近く、被曝しながら待たされる。
 ここでの食事は1日2食。朝食はビスケットと野菜ジュース。夕食は湯をかけて食べるアルファ米と野菜ジュースだけ。肉体労働で汗をかいてもシャワーを浴びるどころか顔を洗うこともできない。
 それでいて、もらう賃金は最高でも通常時の日当にプラス危険手当が10万円。大半は危険手当も数千円から1万数千円ほど。
 2011年5月23日まで、ホールボディカウンターによる内部被曝の検査を受けたのは、それまでに緊急作業に従事した7800人のうち1800人だけ。そして、内部被曝が1万カウントをこえた人が見つかった。それでも、誰も大騒ぎせず、そのまま、「どうぞ、お帰りください」と言われるだけだった・・・。
線量が高いため、作業は文字どおりの「人海戦術」で進められる。作業時間は、1班あたり30分。3回まで昇り降りする時間を差し引くと、現場で実際に作業できるのは、せいぜい10数分が限度。だから、大量の作業員を投入して、次から次へと交代して工事を進めていく。
 6次下請けで入っている経営者に5次下請けの会社が支払う日当は1人あたり1万8000円。そのうち、1万5000円を労働者に渡す。
 九州の原発で働く作業員の日当は1万4000円が相場だった。原発では、偽装請負は当たり前。しかも、実態は二重派遣、三重派遣。そして、中間に暴力団が絡んでいる。結局、そうしないと人が確保できない。
 東電が認めているのは三次までだけど、実際のところ、一番下は10次くらいまでいく。もし、完全に法人登録していないとダメとか、暴力団が絡んでいるのを排除しようとしたら、原発は成り立たない。放射性物質は、まだ漏れ続けているし、汚染水も地下水が流入してどんどん増え続けている。こんな状況で「収束」はありえない。
 「誰かがやらなくてはいけない」被曝労働が、これから数十年間にわたって続く。いえ、数十年では絶対に終わるはずがありません。何百年でもないでしょう。永遠に地球を汚染し続けるのです。原発、放射性物質を生みだすもとと人類の平和共存はありえません。
 今こそ、原発なんて直ちに「ノー」の声をあげるべきです。
 大変いい本でした。著者のご苦労に感謝します。
(2012年10月刊。1700円+税)

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