弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年12月 3日

ヒトはなぜ難産なのか

人間

著者   奈良 貴史 、 出版   岩波書店 

 ヒトは、腰の骨を見たら、男か女か見分けられる。安産をするか、しないかという性差が腰の骨にあらわれる。骨盤を構成する骨である寛骨と仙骨をみると、90%以上の確率で男女を判断できる。
 ところが、ニホンザルは骨盤に性差はない。オスとメスの区別は犬歯の大きさや体格の違いで見分ける。
 ヒトの形態学的定義は直立二足歩行。そのため、ヒトの骨盤は類人猿と大きく異なった独自の形をしている。難産がヒトの性差をつくり出している。
 人類は難産の出現によって、助けあう人間社会をつくり出した。お産に立ちむかうことで、人間は進化してきた。ヒトは、地球上の哺乳類のなかで、一番難産だろう。
 江戸時代の女性の死因の4分の1以上を難産か産褥死が占めていた。
ヒトは初産だったら平均15時間もかかる。かつてお産はかなり危険性の高いものだった。1900年には、年間6200人が死亡した。1940年でも、全国で5000人以上が亡くなっている。
平安時代の歴史物語「栄華物語」に登場する経産婦47人のうち11人、23.4%がお産によって死亡している。
今でも、決して100%安産ではなく、日本では毎年60~70人の妊産婦が死亡している。
多くの子どもは、母親の体を傷つけながら誕生する(会陰裂傷など)。
ヒトが難産な理由は、直立二足歩行に適応した身体構造と、脳の大きさが二大要因である。産道は、S字形の急カーブになっている。ヒトの産道は曲がりくねっているうえ、形が変化している。
現代のお産が難産なのは、女性の肥満も影響している。ただでさえ狭い産道に脂肪を蓄えている。
 人間が難産であることは人類の特質と深くかかわっていることが分かりました。
(2012年9月刊。1200円+税)

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