弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2012年11月21日
日本の国境問題
社会
著者 孫崎 享 、 出版 ちくま新書
尖閣不況が日本にやってきました。私のマチにあるリゾートホテルは中国系資本が経営しています。大量の中国人客が日本人客が日本に来ることをあてこんで、それまで韓国系資本だったのを買収したのです。ところが、尖閣列島で中国とのトラブルが表面化して以降、中国客がパッタリ来なくなりました。閑古鳥の鳴くホテルでは、リストラが始まり、身売り話が出ています。
ところが、右寄り週刊誌では、「日中もし戦ったら、どちらが勝つか」などという馬鹿げた特集を大々的に組んでいます。編集者が正気だとは思えません。自分の雑誌が売れたら日本がどうなってもかまわないという無責任さには、呆れるというより腹が立つばかりです。
著者は、国境紛争は長い目で考える必要がある。むしろ紛争を一時的にタナ上げするのも解決法の一つ、何十年もかかって、ようやく解決できたらいいと息長く考えるべきものだ。つまり、平和的な話し合いこそ大切だと強調しています。まったく同感です。
そして、尖閣諸島が日本の領土だという根拠は、実は乏しいのだと著者は主張しています。
琉球が日本領でない時期に、尖閣諸島が日本領だったとは言えない。尖閣諸島が日本領になるのは、日本が琉球王国を強制的に廃止して、琉球藩を置いた1872年以降のこと。
領土問題は国際紛争である。日本が正しいと思っているだけでは紛争は解決しない。領土問題は、単に「領土」の帰属をどうするかという司法的問題にとどまらない。領土問題は、二国間関係の大きな流れを反映し、ときに冷静化し、ときに対立が全面に出る。 中国人にとって、尖閣諸島は台湾の一部だ。リスクが自分の身に降りかかる恐れがあるとき、人は簡単に過激なナショナリズムに走らない。いたずらにナショナリズムを煽れば自分たちが死ぬ。
歴史的にみれば、多くの国で国境紛争を緊張させることによって国内的基盤を強化しようとする人物は現れる。そして、不幸なときには戦争になる。
国境問題で合意に達するには容易なことではない。中国とソ連のあいだの国境紛争(珍宝島)では、事件発生後、解決するまで22年もかかっている。
領土問題で重要なのは、一時的な解決ではない。両国の納得する状況をつくることである。それが出来ないうちは、領土問題が紛争に発展しない仕組み、合意をつくることである。
アルザス・ロレーヌの国境紛争でドイツは奪われたものを奪いかえす道を選択しなかった。ドイツは国家目的を変更し、自国領土の維持を量重要視するという古典的な生き方から、自己の影響力をいかに拡大するかに切り替えた。失った領土は求めない、その代わりヨーロッパの一員となって、その指導的立場を勝ちとることを国家目標とした。
中国と言っても一枚岩ではない。中国にも、一方で軍事力で奪取しようというグループがいる。他方、紛争を避けたいというグループもいる。日本は中国の後者のグループといかにして互いに理解しあい、協力関係を強化するかが重要だ。
アーミテージは、尖閣問題で日本人の感情をあおろうとしている。日本が対中国に強硬政策をとるようにしむけているのだ。尖閣諸島という問題を利用して、日米軍事同盟を強化しようとしているわけだ。日中の武力紛争に巻きこまれようとすると、アメリカは必ず身を引く。日本のためにアメリカが行動することはありえない。
平和的手段は、一見すると頼りない。しかし、有効に機能されれば、もっとも効果的な手段となる。武力紛争にもちこまないという意識をもちつつ、それぞれの分野で協力を推進することが平和維持の担保になる。
そうですよね。大変示唆に富んだ内容でした。
(2012年10月刊。760円+税)
日曜日、恒例のフランス語検定試験(準一級)を受けました。この2週間はその受験勉強に大変でした。車中読書はやめて、「傾向と対策」そしてフランス語単語集を読みふけり、カンを取り戻すのに必死でした。
試験当日も朝早く起きて、一生けん命にフランス語に浸りました。午後3時ころに始まった試験が夕方5時半に終わったときには、ぐったり疲れてしまいました。
自己採点で81点(120点満点)。まだ7割をとるのは難しい実力です。それでも、やれやれでした。
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