弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年10月26日

誰が中流を殺すのか

アメリカ

著者   アリアナ・ハフィントン 、 出版   阪急コミュニケーションズ 

 この本のサブタイトルは、アメリカが第三世界に堕ちる日、というものです。アメリカン・ドリームなんて過ぎ去った遠い日話です。弱肉強食、留めるものはますます富んでいく一方なのに、今なお多くのアメリカ人は過去の栄光にしがみつき、現実を直視していないように思えてなりません。
 アメリカが危険な道を歩みはじめたことを何より明確に示すのは、中流層の哀れな状況だ。アメリカの中流層は、今や「絶滅危惧種」と呼んでも誇張ではない。
 アメリカの5人に1人が失業中か不完全雇用の状態にある。9世帯に1世帯がクレジットカードの最低支払額を払えない。住宅ローンの8分の1が延滞か差押えされ、アメリカ人の8人に1人が低所得向けのフードスタンプを支給されている。
毎月12万以上の世帯が破産し、金融危機によって5兆ドルもの年金や投資が消えた。
年収が15万ドル以上だった層の失業率はわずか3%。中所得層では9%。所得が下から10%の層では、失業率は実に31%。
トリクルタウン経済とは、留めるものが富めば、乏しいものにも自然に冨が浸透(トリクルタウン)するという理論。高所得層の低い失業率が、所得の少ない層の雇用に結びついているようには見えない。
 アメリカが第三世界の国への道を歩んでいるように見える予兆は、不要な戦争を戦い、さらに強力な武器をつくるために膨大な予算を使いつづけていること。ローマ帝国の時代から、国力の衰退があらわれるサインのひとつは、ほかに優先事項があるのに、国防費を増やすこと。文明は何かに殺されるのではなく、たいてい自死する。
 2010年だけで、アフガニスタンとイラクの戦争に投じた1610億ドルを、国内でたたかいを強いられているアメリカ人のために使うべきだったのではないのか。でも、ワシントンで、そんな声はほとんど聞こえてこない。
 大学の学費を出せないために多くの才能ある若者がアメリカン・ドリームを追い求められない一方で、アメリカは古くて不要な国防プログラムに大金を使いつづけている。
 アメリカでは、今なお成人の過半数(53%)が自分を中流とみなしている。ええっ、本当でしょうか・・・。日本人は、かつてあった総中流意識はとっくに幻想だと気づいていますよね。
 2000年から2007年に、中流層の平均収入は1175ドル減り、支出は4655ドルも増えた。同じ時期に収入の上位1%の層は、ブッシュ時代の貸金上昇分の65%を手にしていた。
 中流層は、おおむねルールを守り、やがて職を失う。
アメリカの多国籍企業が外国で稼いだ収入は7000億ドルで、それに対して支払った税金は160億ドル、税率は2.3%だった。
 自己破産申立する人の56%が35歳~44歳の層。そして、その圧倒的多数が、失業したために月々の支払いが出来なかったり、高い医療費に困っている中流層だ。自己破産の62%は医療費が原因となっている。すなわち、140万人の破産者のうち、90万人が医療費によるもの。そして、その78%は医療保険に入っていた。医療保険は医療費の高騰をカバーできていない。
 アメリカには、家のない子どもが150万人いる。50人に1人の子どもに家がない。家のない子どもは、病気になるリスクが4倍も高く、学習・発達の面で問題をかかえる可能性が2倍も高い。
 この20年間に、アメリカの刑務所にかかる資金は大幅に増えた。刑務所のなかで暮らす人は200万人をこえ、20年前の3倍になっている。そして、刑務所のなかに15万人もの子どもがいる。中退率の高まりに伴って、アメリカの多くの高校が大学ではなく、刑務所に入るための準備機関になった。
アメリカン・ドリームは、今ではアメリカン・ナイトメア(悪夢)に成り果てている。
いやはや、すさまじい現実です。日本をアメリカのようにしてはいけません。
(2011年11月刊。2000円+税)

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