弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年10月15日

家族進化論

人間

著者   山極 寿一 、 出版   東京大学出版会 

 人間とは何か、どういう生き物なのかを知るためには、サルやゴリラなど近縁の生き物との対比が欠かせません。
 狩猟採集民の研究が世界各地で進むにつれて、狩猟という生業様式が人間の攻撃性を高めるという考えは否定されるようになった。樹皮や葉を多く食べるゴリラは強大な大腸をもっている。主として果実を食べる霊長類の胃腸は比較的単純で短く、食物の消化時間も葉食の霊長類に比べて短い。
 ゴリラとチンパンジーは、同じ果実でも異なる利用の仕方をするため、両者が出会うことはめったにない。そして両者には敵対的な態度もみられない。どの場合も、先着したほうが食べ終わってその場を離れるまで後着したほうは待っていた。
 ゴリラは草食に、チンパンジーは果実食にあった採食戦略をもっている。
 ゴリラは、大量にあるけれど消化に時間のかかる葉や樹皮を補助食物にしたおかげで、草食動物のように群れ単位で採食することが可能になった。
 直立二足歩行がなぜ生まれたか。その一は、エネルギー効率を良くするため、その二は外敵への威嚇につかうため、その三は、食物を運ぶため。
 四足で歩くのに比べて敏棲性や速度こそ劣るが、時速4~5キロメートルで歩くとエネルギー効率が良いし、長い距離を歩くほどエネルギーの節約率が増す。また、直立二足歩行の利点は手を自由にしたことにある。
人間は食物の消化率を高めて、胃腸の働きを軽減した。そのため、胃腸にまわしていたエネルギーを脳に費やすことができるようになり、脳を大きくすることができた。胃腸の縮小と脳の増大はトレードオフの関係にある。
 食物を分配して一緒に食べるという行為は、人間以外の霊長類ではほとんど見られない。チンパンジーが食物を分配するのは、優位個体の社会的地位が仲間の協力と支持によって維持されているからだ。
 アフリカのピグミーの人々においては、大きな獲物を捕って還ってきた仲間を、村で待ちかまえていた人々が散々にけなす。なぜか?
 それは、肉の取得者に権威が集中するのを防ぎ、平等な社会を維持するための工夫の一つなのである。
ニホンザルのメスは、愛情に結びつかない時期は最優位のオスと交尾し、排卵日になると優位なオスの目を盗んで好みのオスと交尾する。メスは排卵日に限ってはお目当てのオスとだけ交尾をすることが可能なのだ。DNAによる父子判定によっても、けっして優位なオスがたくさん子どもを残しているわけではないことが分かっている。
乱交的な交尾は、どのオスにも自分の子どもと思わせ、オスから子どもの世話を引き出したり、群れ内のオスの数を増やして防衛力を高めようとしていると考えられる。
人間の女性も、排卵日が近くなると性的なパートナーの選択性が高くなる。そして、そのとき、いまのパートナーとは別のタイプの男性に性的魅力を感じる傾向がある。
霊長類社会では、育児や一緒に育った経験が交尾回避を引きおこす要因になっている。ギブツ(イスラエルの子育てシステム)の子どもたちは、一緒に育った異性の仲間の結婚の相手とはみなさない。
 私の子どもたちも、同じ保育園にいた仲間は恋愛そして結婚相手とすることはないし、大人になっても単なる親しい友人としてずっと交際しています。「おしめ仲間」とは結婚できないのですね。
ペアをつくるテナガザルや単独生活するオランウータンには、子殺しが報告されていない。そして、乱交的な交尾を好むボノボにも子殺しはみられない。
 チンパンジー、ゴリラ、オランウータンは、自分とはちがう種の相手でも、その身体に同化し、相手の意図までそっくり模倣する能力をもっている。
人間と家族の機嫌を根本的に考える手がかりとなる本だと思いました。
(2012年6月刊。3200円+税)

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