弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年10月 3日

ワンランク上の説得スキル

司法

著者   小山 斎 、 出版   文芸社  

 著者には申し訳ありませんが、読む前はまったく期待していませんでした。ですから、得意とする飛ばし読みでもしようかと思って読みはじめたのです。ところが案に相違して、これがすこぶる面白く、かつ、実務的にも役立ち、また、反省させられもする本でした。
 著者は大学に入るため肺結核と診断されます。そのとき19歳、母や弟たちを捨てて、大学に向かった。すぐサナトリウムに入らないと死ぬと医者から言われていたのに、なんと長生きしたのでした。
 この本には、説得の見本ないし材料としていろんな本が紹介されています。「走れメロス」もその一つです。教科書に出ていましたよね。さらに、芥川龍之介の「羅生門」が登場します。黒澤明監督の有名な映画にもなった話です。いろんなストーリー展開が矛盾する形で展開します。まさに真相は「薮の中」です。次に、シェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」です。これは、私はまったく知らない話でした。続いて登場するのは、森鴎外の「高瀬舟」。ここでは、弟を殺してしまったのか、自殺の手助けをしただけなのかが問われています。難しい問いかけです。
 人が相手から受けとる情報は、外見やボディランゲージが55%、声の調子が38%。言葉はわずか7%にすぎない。顔の表情が一番であり、やはり目がものを言う。
 コミュニケーションは、人を動かす力である。相手に共感、納得してもらったうえで、相手に自ら動いてもらう力なのだ。
 聴き方には次の4原則がある。1つ、目を見る。2つ、ほほえむ。3つ、うなずく。4つ、相槌をうつ。聴き方には、3つの方法がある。1つ、受け身で聴く。2つ、答えつつ聴く。3つ、積極的に聴く。 
 人間の脳が一番喜ぶのは、他人とのコミュニケーションである。そのなかでも、目と目が合うことが一番うれしいこと。脳が喜ぶとは、脳の中でドーパミンが放出されること。
 説得するときの6つのマジック。その1、会ってすぐに相手の名前を呼ぶ。その2、聴くとき、話すとき、体を少し乗り出す。その3、ほほ笑む。その4、相手に対して相手に対して気づかいを示す。その5、楽観的に、前向きであること。その6、相手を尊敬する。
 依頼者との打合せが終わるころ、雑談に入って、話の主導権を依頼者に渡す。すると、それまでと反対になって、二人の関係は対等になる。すると、依頼者は笑顔で帰っていく。
説得したい相手が怒っているときは、どうしたらよいか?冷静にふるまい、おどろきの表情も見せない。その怒りの原因がこちらにあるときは、心から、すぐに謝罪する。理不尽な挑発のときには、反発も反撃もせず、冷静さを保つ。そして、相手の立場を知り、相手の視点で、ともに考えて問題を解決したいという姿勢を示す。相手の挑発は、いずれ収まる。コーヒーブレイクをとる。場所を変える。
勉強になりました。著者の若いときのご苦労がしっかり生かされ、教訓化されているところは、さすがだと感嘆しました。
(2012年1月刊。1100円+税)

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