弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年9月13日

集団訴訟・実務マニュアル

司法

著者   古賀 克重 、 出版   日本評論社  

 日本のこれまでの大型訴訟をざっと概観し、弁護団事務局長をつとめた経験から集団訴訟をすすめていくときの実務マニュアルを大公開した本です。とても役に立つ本だと思いました。
 集団訴訟は被害に始まり、被害に終わると言われる。そして、弁護士は、集団訴訟においては、一般には好ましくないとされている、原告の掘り起こしをすすんですることになる。
 集団訴訟においては、被害者がいかに声をあげるか、そして一つに結束できるかが勝敗を分ける。多数の被害者が割れていては国を追い込むことは困難を伴う。1割にも満たない原告数では、裁判所の理解はおろか、社会の支持が得られない。一定の地域で被害が多発しているときには、その多発地区に入り込み、弁護団が訴訟説明会を重ねる。
 しかし、掘り起こしは困難をきわめることが多い。なぜなら、プライバシーが守られにくく、提訴したことが知られると非難されたりするからである。
被害の回復は、弁護団から勝ちとるものではなく、被害を受けた原告自らが主体となって勝ちとるもの。弁護士、弁護団は、原告に寄り添い、原告一人ひとりが被害を回復させる道を自らの足で歩み出すことに手をさしのべることが役割だ。
 被害者運動の主体性と統一性を追求する。主人公は原告、弁護団はサポーターとの基本認識をもちながら、専門家としての役割を果たすことが必要だ。
原告がインターネットで情報を発信するときには、弁護団としてもプライバシー保護を入念にチェックする必要がある。また、発信する情報は戦略的に選択すべきである。情報は被告の国や企業も見る可能性があることを念頭においてコントロールしておく。
プライバシー確保の必要性の高い訴訟では、匿名(原告番号制)ですすめる。裁判所と十分に協議しておくし、閲覧制限の申立もしておく。事件が終結したときにも、閲覧制限の申立をする。
訴訟救助の申立をして、訴状の貼用印紙を貼らないですますことがある。裁判所に対して、訴状送達を先行させる扱いを申し入れる。
集団訴訟であっても3年以内に解決までいった実績がある。そのためには、原告側が常に訴訟をリードしていく必要がある。原告側の立証計画を早目に立てて、裁判所にそれを採用させて訴訟を進行させていく。
 弁護団として裁判を勝ち抜くには、1回1回の法廷のすべての場面で被告側を圧倒し、常に原告が優位に立つように努力する。これは、口で言うのは優しくても、現実には大変なことですよね。
 準備書面は長いものより短ければ短いほどいいというのが原則である。たしかにそうなんですけれど、実際には長大論文になっているのが多いですよね。
 原告本人尋問のときには、原告の心の奥底から自然と噴き出る感情の発露としての言葉が求められる。
集団訴訟において、判決を求めるのが、和解による最終判決をめざすのかは、一番重たい選択と言える。これは一般事件においても共通する難問です。
先行した集団訴訟についてもよく調べてあることに感嘆しながら読みすすめていきました。今後ますますの著者の活躍を心より期待します。
(2009年8月刊。2300円+税)

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