弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年9月12日

戦後史の正体

日本史

著者   孫崎 享 、 出版   創元社  

 戦後日本を、アメリカとの関係で、自主を志向するか、追随を志向するかで区分してみた面白い本です。それにしても、かの岸信介が、ここでは自主志向に分類されているのには正直いって驚きました。
 1960年の日米安保条約改定反対闘争にも新たな解釈がなされています。
 アンポ反対、キシを倒せ。これが当時のデモの叫びでした。そのキシがアメリカべったりというより、アメリカから自立を図ろうとしていたなんて、本当でしょうか・・・。
 多くの政治家が「対米追随」と「自主」のあいだで苦悩し、ときに「自主」を選択した。そして、「自主」を選択した政治家や官僚は排斥された。重光葵(まもる)、芦田均、鳩山一郎、石橋湛山、田中角栄、細川護熙、鳩山由紀夫。そして、竹下登と福田康夫も、このグループに入る。
うひゃひゃ、こんな人たちが「自主」だったなんて・・・。
日本のなかで、もっともアメリカの圧力に弱い立場にいるのが首相なのだ。アメリカから嫌われているというだけで、外交官僚は重要ポストからはずされてしまう。
アメリカの意を体して政治家と官僚をもっとも多くの排斥したのが吉田茂である。吉田首相の役割は、アメリカからの要求にすべて従うことにあった。吉田茂は、GHQのウィロビー部長のもとに裏庭からこっそり通って、組閣を相談し、次期首相の人選までした。吉田茂が占領軍と対等に渡り合ったというイメージは、単なる神話にすぎず、真実ではない。
 「対米追随」路線のシンボルが吉田茂であり、吉田茂は「自主」路線のシンボルである重光葵を当然のように追放した。吉田茂は、自分の意向にそわない人物を徹底的にパージ(追放)していった。外務省は、「Y項パージ」(吉田茂による追放)と呼んだ。
 吉田茂は、大変な役者だった。日本国民に対しては、非常に偉そうな態度をとったし、アメリカに対しては互角にやりあっているかのようなポーズをとった。実際はどうだったのか?
日本がアメリカの保護国であるという状況は、占領時代につくられ、現在まで続いている。それは実にみごとな間接政治が行われている。間接政治においては、政策の決定権はアメリカが持っている。
 日本は敗戦後、大変な経済困難な状況だった。そのなかで6年間で5000億円、国家予算の2~3割をアメリカ軍の経費に充てていた。
 吉田茂はアメリカの言うとおりにし、アメリカに減額を求めた石橋湛山は追放されてしまった。アメリカは石橋湛山がアメリカ占領軍に対して日本の立場を堂々と主張する、自主線路のシンボルになりそうな危険性を察知して、石橋を追放することにした。
東京地検特捜部の前身は隠匿退蔵物資事件捜査部。つまり、敗戦直後に旧日本軍関係者が隠した「お宝」を摘発し、GHQに差し出すことだった。
アメリカが独裁者を切るときには、よく人権問題に関するNGOなどの活動を活発化させ、これに財政支援を与えて民衆をデモに向かわせ、政権を転覆させるという手段を使う。2011年のアラブの春、エジプトとチュニジアの独裁者を倒したときも、同じパターンだった。韓国の朴大統領暗殺事件も、その流れでとらえることができる。
岸信介は、1960年に新安保条約の締結を強行した。そして、CIAからの多額の資金援助も受けている。ところが、岸は対米国自立路線を模索していた。岸は駐留アメリカ軍の最大限の撤退をアメリカに求めた。
 1960年代のはじめまでにCIAから日本の政党と政治家に提供された資金は毎年200万ドルから1000万ドル(2億円から10億円)だった。この巨額の資金の受けとり手の中心は岸信介だった。そして、岸首相は中国との貿易の拡大にもがんばった。
ところが、CIAは岸を首相からおろして、池田に帰ることにした。日本の財界人がその意を受けて、岸おろしに動いた。
 そうなんですか・・・。池田勇人の登場はアメリカの意向だったとは、私にとってまったく予想外の話でした。
どんな時代でも、日本が中国問題で、一歩でもアメリカの先に行くのは、アメリカ大統領が警戒するレベルの大問題になる。
 ニクソン大統領の訪中を事前に日本へ通告しなかったのは、佐藤首相への報復だった。少しでもアメリカの言いなりにならない日本の首相はアメリカから報復された。
 田中角栄がアメリカから切られたのは、日中国交正常化をアメリカに先立って実現したから。キッシンジャーは、日ごろ、常にバカにしていた日本人にしてやられたことにものすごく怒った。
小泉純一郎は、歴代のどの首相よりもアメリカ追随の姿勢を鮮明に打ち出した。
アメリカの対日政策は、あくまでもアメリカの利益のためのもの。そして、アメリカの対日政策は、アメリカの環境の変化によって大きく変わる。
 アメリカは自分の利益にもとづいて、日本にさまざまなことを要求してくる。そのとき、日本は、どんなに難しくても、日本の譲れない国益については、きちんと主張し、アメリカの理解を得る必要がある。
 この本では、TPPもアメリカのためのものであって、日本のためにはならないことが明言されています。私も同じ考えです。
 戦後の日本史をもう一度とらえ直してみる必要があると痛感しました。あなたに一読を強くおすすめします。
(2012年9月刊。1500円+税)

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