弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年9月27日

「清冽の炎」(第6巻)それから(上)

社会

著者   神水 理一郎 、 出版   花伝社  

 1968年6月に始まり、翌1969年3月まで続いた東大闘争にかかわった学生たち、そしてセツラーの35年後を明らかにしたノンフィックションのような小説の第6巻です。いよいよ完結編となり、その前半です。
2004年のある朝、銀座でコンサルタント業を営む青垣が警察に逮捕された。東大駒場で同窓だった久能は懇意の若手弁護士、聖徳一郎に青垣の弁護を依頼した。一郎が警察署に面会に行くと、青垣は無罪を主張する。
 事件は、ベンチャー企業への融資詐欺。青垣は、北町セツルメントが活動していた磯町出身のカズヤと組んで銀行にベンチャー企業へ5億円を融資させていた。このとき、やはり同窓の芳村の勤めるメーカーが買い付け証明書を発行していたが、芳村は取締役就任を目前にしながら成績が低迷していて焦っていた。
 果たしてベンチャー企業には、どれだけの実体があったのか、銀行が融資した五億円は、どこに消えていったのか。
 青垣の刑事裁判が東京地裁で始まった。担当裁判官は佐助と駒場寮で同室だった沼尾だ。沼尾はエリートコースを歩いている。果たして学生時代の信念を裏切ってしまったのか・・・。
 法廷に被害者のメーカーを代表して証言を求められた芳村は、青垣に騙された、無能な部下をもっていたためベンチャー企業の実態を見抜けなかったと言い放ち、被告人の青垣を厳しく弾劾して自己の非を認めなかった。そして、芳村の部下の一人は、追いつめられたあげく、ホームから転落して亡くなった。
 北町セルツメントで子ども会活動をしていたヒナコは、東京の下町で中学校の理科の教師としてスタートすることができた。生徒指導をふくめて忙しくも充実した教師生活ではあったが、生物学への探究心を抑えきれず高校教師への転身を図った。ヒナコは実直な会社員と結婚して一子をもうけ、教師生活を続けていった。
 一郎は青垣と話しているうちに、1968年に起きた東大闘争のとき、青垣が東大全共闘の活動家だったことを知る。そして、意外なことに母・美由紀も青垣の活動家仲間だったという。美由紀が駒場時代のことを一郎に語ろうとしないのはなぜなのか・・・。
 東大出身の起田たちは、同窓会を開いていた。そこには官僚たちも貴重な情報交換の場として顔を出していた。
団塊の世代が一斉に定年退職し、年金生活に入っています。ところが、年金は切り下げられ、介護保険料は値上げされる一方です。そのうえ、庶民のフトコロを直撃する消費税は税率アップが決まりました。
 なぜ、かつてあれほど反逆精神が旺盛だった団塊世代なのに、今ではこんなにもおとなしく政治の流れに身をまかせてしまっているのでしょうか。今こそ再び声を上げるときではないのでしょうか・・・。眠れる獅子である団塊世代に対して熱いエールを送る本として、いま強く一読をおすすめします。
(2012年9月刊。1800円+税)

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