弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年8月31日

弁護士たちの国鉄闘争

司法

著者    刊行委員会 、 出版    岡田尚法律事務所 

 JRの前は日本国有鉄道でした。そこには国労という強大な労働組合があったのです。その国労つぶしのための高等戦術が国鉄の民営・分割でした。
 私が大学生のころには、日本でも、労働者も学生も、なにかといえばストライキをして、街頭でデモ行進していました。今や、ストライキという言葉は死語と化してしまいました。デモ行進も滅多にお目にかかりません。首相官邸の周辺を何万人の市民が取り囲んでも、テレビや大新聞はまったく報道しませんので、デモや集会までもが日本ではないも同然になってしまいました。
 この本は、国労つぶしに抗して闘った国労、そして争議団を支えていた弁護士たちの奮闘記が集められています。私の同期、同世代が何人もいますが、弁護士になって5ヵ月から取り組み、今では弁護私生活30年をすぎたと語る人までいます。それほど長期の集団的なたたかいでした。したがって、この本を通じて、日本社会の一断面を認識することができます。また、読んで面白い本です。
 弁護士は、権利闘争において脇役であり、サポーターであり、アドバイザーであるが、国鉄闘争においては、弁護士に闘争への参加意識は強かった。『弁護士たちの国鉄闘争』という本書のタイトルには、その思いが込められている。
 昔の京都地労委の驚くべき審理状況が報告されています。なんと、証人尋問の途中であっても、証人も代理人もタバコを吸うことができて、そのため、JP側代理人もタイミングをはずされることがあった。信じられない光景です。
国鉄・JR側の法務課に裁判官出身の専門家(江見弘武)がいて、労務対策の抜け道を指南していたという指摘を読んで、私は許せないことだと思いました。
 裁判でたたかうか、地労委でたたかうかという選択を迫られたとき、神奈川の弁護団は体験にもとづき地労委を舞台としてたたかうべきだと主張し、議論をリードしていったようです。なるほど、さすがだと思いました。
 地労委の救済命令は柔軟で裁量性があるからです。私も神奈川県で弁護士生活をスタートさせたとき、同期の岡田弁護士に頼み込んで地労委の審問にかかわらせてもらいました。福岡に戻ってきてから地労委にかかわったことは残念ながら一度もありません。
裁判所で争うことは、「敵の土俵」で戦うようなものだ。不当労働行為の救済機関として労働委員会があるのだから、この土俵に敵(国鉄・JR)を引っぱり込んで勝利を勝ちとろうと神奈川の弁護団はこぞって主張した。
 刑事裁判では、あくまでも証拠と論理に基づいて事実を究明し、事件の本質を明らかにすることが大切である。これを十分に行わず、単に被告人の人間像を描くことのみに力を注ぐことは、お涙ちょうだい式の人情論か、せいぜい情状論でしかないだろう。
 検察側が提出したテープをよく聞くと、「奴らにやらせるようにしむけますから、よってたかって現認して」とあった。同じ国鉄の労働者を「奴ら」と呼んだうえで、謀略をこらしていたのだ。そして、この助役が隠し取りしていた録音テープのなかに、この場面が録音されているのを発見したのは、あのオウムに殺された阪本堤弁護士でした。
坂本弁護士と最後に会っていた岡田弁護士は、坂本さちよさんの依頼で変わり果てた坂本弁護士の遺体と対面します。すると、そこには5年10ヵ月も山の中に埋められていたけれど、変わらぬ坂本弁護士の身体だったというのです。オウムの連中は、本当にむごいことをしたものです。許せません。坂本弁護士の無念さは、いかばかりだったでしょうか。
 国労組合員の採用差別事件で東京高裁の村上敬一裁判長は、「分割民営化という国是に反対したのだから、差別されて当然」という判決を下した。とんでもない裁判官です。今、この人は、どこで何をしているのでしょうか・・・。国是だったら、何でも許されるのですか。裁判所は一体、何をするところなんですか。そもそも国是とは何なのですか・・・。
JR東海の葛西敬之会長の尋問を担当した加藤要介弁護士は尋問の準備の過程で緊張のあまりに眠れなくなり、ワインを1日1~2本明けても、1日3時間以上は眠れず、苦しい思いをした。尋問が終わってからも2週間ほどなお緊張が解けずに苦労した。大変なプレッシャーだったことがよく伝わってきます。それにしても、ワインを毎晩1~2本とはよくぞ飲んだものですね。私なんか、せいぜい2晩に1本ですし、それも滅多にしません。
 国鉄改革は、中曽根康弘の企画・立案にもとづくもの。その実行上の戦略は元大本営参謀の瀬島龍三の作戦による。現場指揮官として葛西が辣腕を振るい、その法律顧問は裁判所から出港していた江見武弘が担当した。
 江見武弘は、「団交については、方針を変えることを前提に交渉する必要はない。聞き流しておけば足りる」と助言し、国労との国交をまったく形骸化させた。
 400頁もの部厚い証言集ですが、とても読みごたえがありました。国鉄闘争のみならず、戦後日本の労働運動に関心のある人には必読の文献だと思います。
(2012年4月刊。非売品)

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