弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2012年8月27日
なぜ男は女より多く産まれるのか
人間
著者 吉村 仁 、 出版 ちくまプリマー新書
アメリカには、13年とか15年に一度、セミが大量発生する地域があります。どうして、そんなことが起きるのか?
セミの幼虫は、木の根っこから葉っぱに水を運ぶ導管というパイプに口を突っ込み、本の根が吸い上げた水を分けてもらって、その吸い上げ量に比例して成長する。植物はある程度以下の気温になると休眠するので、冬に木の根が休んでいるあいだはセミも冬眠する。そして、春になって木が水を吸い上げ出すと、セミたちもその水分をもらう。温度が高くなると、それに比例して水分の吸い上げ量が増加する。セミの成長は、植物の水分を吸い上げ量に比例している。だから、気温が高くなると、セミの幼虫の成長がどんどん早くなり、アブラゼミなら成虫まで7年かかるのが、2年とか3年に短縮してしまう。
氷河期になって気温がどんどん下がってしまった。成長できない冬が長く、短い夏もあまり暖かくないので、5年で成虫になっていたセミが10年たってもまだ成虫になれなくなった。
そして、13年とか17年という素数周期は絶滅の出会いをうまく避けていた。このように、変動する環境への対応の本質は、「絶滅の回避」なのである。
モンシロチョウの雌はキャベツ畑で卵を生み付けると、近くにあるアブラナ科の野草にも卵を生みつける。なぜか?
キャベツ畑は効率はよいが、モンシロチョウにとっては、殺虫剤散布の危険、そして人間が収穫して絶滅してしまうリスクがある。そこで。絶滅のリスクを分散させるため、野生のイヌガラシにも卵を生み付ける。
なーるほど、モンシロチョウの絶滅回避作戦って、すごいですね。
人間の性比は、男子がわずかに多く、55対45の比になっている。これは日本だけでなく、多くの社会で共通の普遍的な現象である。そして、幼児に限らず、あらゆる年代で男子の死亡率は高く、寿命やがんの死亡率にも、その違いが反映されている。
オスがメスに比べて死にやすいということは、人間だけでなく、広く動物にみられる現象である。なぜなら、オスは種付けで役割が終わるが、メスは出産・子育てと長生きが必要だからである。
つまり、男子の死亡率が高いときには、いくらか男子を余計に生むと、全員が女性となって絶滅してしまう可能性(確率)を最小にできる。
人間がモンシロチョウほどは賢くないのではないかという指摘もあり、なるほど、そうかもしれないと思わされたことでした。面白い本です。
(2012年4月刊。780円+税)