弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年7月28日

有罪捏造

司法

著者   海川 直毅 、 出版   勁草書房  

 大阪で2004年(平成16年)に起きた大阪地裁所長に対するオヤジ狩り事件についての本です。その犯人として警察が捕まえた人たちが実は無実だったという衝撃的な話なのです。ええーっ、大阪の警察はいったいどうなってんの・・・と思ってしまいました。警察の思い込み捜査のひどさがここにもあらわれています。
 大阪地裁所長が自宅に帰ろうとして、夜8時半すぎに歩いているところを4人組の若者から襲われ、所持金6万円を奪われたという事件でした。犯人は高校生風の4人組ということだったのに、29歳の、身長184センチ、体重90キロの成人が犯人とされたというのも納得できないところです。ところが、検察官は犯人像にまったくあわないのに起訴してしまうのでした。
 当然のことながら、弁護人は苦労します。被害者が現職の大阪地裁所長だけに、裁判官は被害者の尋問をなかなか採用とはしません。先輩に対する遠慮(保身か・・・?)が先に先立つのです。それでも、なんとか法廷での被害者尋問は実現しました。
そして、決定打は近くの民家に備え付けてあった防犯ビデオでした。その映像に犯人と思われる4人の人物が走り去る様子がうつっていたのです。どう見ても細身の少年風の四人組でした。29歳で巨大の被告人とはマッチしないのです。
 そこで、ビデオ映像を鑑定してもらうことにしました。すると、被告人の身体の特徴とは合致しないことが判明しました。
さらに、事件当夜、共犯とされていた少年と交際していた少女のケータイにメールのやりとりが残っていたのです。結局、これが決め手となりました。そのケータイ・メールは後から作為できるようなものではありませんでした。
 犯行当夜のアリバイが確実に裏付けられたのです。逆にいうと、これほど、明確なアリバイ証拠が出てこないと、被告人が無罪になるのは難しかったのではないかとも思いました。
 それほど、裁判所は警察や検察庁を信頼しているということです。この世は、信じられないことばかりですよね、まったく。
(2012年5月刊。2400円+税)

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