弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年7月27日

比例定数削減か民意の反映か

司法

著者   坂本 修 、 出版   新協出版社

 一票を投ずると政治がかなり大きく変わり、自分たちの要求が実現することを国民が本気で思うようになると、院外の運動を発展させる可能性、財界からみると危険性が出てくる。だから、アメリカと財界は民主党の公約実行を許すわけにはいかなかった。
ここでいう民主党の公約というのは、「海外移転、少なくとも県外移転」というものです。
財界は、政権をとった民主党に対してさまざまな圧力をかけ、その公約(マニフェスト)の裏切りを実行させた。
 財界の機関紙とも言われている「日経新聞」は、二大政党離れが、鮮明になったと評価したが、これは真実を言い表している。支配層の考えていた「二大政党制」は、二つの同質の保守政党でなれあい政治をする。悪政による矛盾が深まっても保守二党間の政権交代でとりあえず国民の目はごまかして、政治をすすめる。
 小選挙区制のインチキは、サッカーでゴールの幅がいびつに設定されているようなものだという、著者の例えには目が大きく開かれました。
 サッカーの一方のチームのゴールの幅は2倍、地方のチームは4分の1、ゴールキーパーがいたら、ほとんどゴールできない。こんなサッカー試合だったらバカバカしくて誰も見にいくはずがない。ホント、そのとおりですよね。
いま政権をとっている民主党は2009年8月の選挙の得票率42%なので、204議席しかないはずなのに、現実には308議席。なんと104議席もの水増し議席がある。4割の得票で7割の議席を得た。少数政党である公明党は、得票率11%だから本来なら55議席なのが21議席。同じように得票率7%の共産党は、34議席のはずが9議席。社民党は、得票率4%で21議席のはずが7議席しかない。これって、どう考えてもおかしいと私は思います。でも、新聞、テレビはおかしいとは言いません。それもまたおかしなことです。そして、これって、本当に「少数意見の切り捨て」なのだろうかと著者は問いかけています。
 憲法9条守れ、原発ノー、消費税増税反対そしてTPP参加反対というのは少数意見でしょうか? 私はそうは思いません。ところが、国会では明らかに少数意見になってしまっています。こんな奇妙な「ねじれ」状況は打破する必要がありますよね。
小選挙区制に切り替えたときの選挙制度審議会には、27人のうち12人はマスコミのトップでした。読売、日経、毎日、朝日、NHK、テレビ東京などです。今も、マスコミは消費税増税賛成の一大キャンペーンをやって、同じことを繰り返しています。上から目線でみている限り、貧困の実相は分からないということなんでしょうね。
年間320億円という政党助成金がマスコミの宣伝費に使われていることも明らかにしています。税金のムダづかいの典型です。怒りが湧きあがります。
 2007年の参議院選挙でテレビCMに50億円、電通などの広告代理店に90億円も使われた。比例定数を80削減して「節約」されるのは56億円でしかない。だったら、それを削る前に320億円というムダな政党助成金を全廃すべきでしょう。
政党助成金はイタリアとアメリカにはなく、イギリスはわずか3億円ほど。フランスは98億円、ドイツは174億円。日本の320億円というのは、ずば抜けて大きい。
私は、大勢の国会議員がいること自体をムダだとは考えていません。でも、今は、たしかにあまりに役に立たないような議員が多いとは思います。かといって、下手に議員の数を減らすと、役に立つ議員まで失ってしまう危険があります。現に、私のよく知る弁護士は国会で大活躍していたのに、残念なことに落選してしまいました。役に立つ議員を失うと、劣化した政治の被害を受けると著者は指摘していますが、まったくそのとおりだ実感しています。
 わずか120頁、350円という薄いブックレットです。ぜひ、あなたもお読みください。世の中には考えるべきことがたくさんあることを知ってほしいと切に思います。
(2012年6月刊。350円+税)

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