弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年7月20日

閉じこもるインターネット

アメリカ

著者   イーライ・パリサー 、 出版   早川書房

 インターネットで世界が広がったというのは単なる錯覚ではないのか、著者は鋭く問題を投げかけています。
 我々は、ある狭い範囲の刺激に反応しがちだ。セックスや権力、ゴシップ、暴力、有名人、お笑いなどのニュースがあれば、そこから読むことが多い。
 パーソナライズされた世界では刑務所人口が増えているとか、ホームレスが増えているとか、重要だが複雑だったり不快な問題が視野に入ることが減っている。
 アマゾンは、あらゆる機会をとらえて、マーザーからデータを集めようとする。たとえば、ギンドルで本を読むと、どこをハイライトしたのか、どのページを読んだのか、また、通読したのか行ったり来たりしたのかといった情報が、アマゾンのサーバーに送られ、次に購入する本の予測に用いられる。
 グーグルもフェイスブックも、関連性の高いターゲット広告を収益源としている。このように人々の行動が商品となっている。インターネット全体をパーソナライズするプラットフォームを提供する市場で取引され小さな商品に、関連性を追求した結果、インターネットの巨大企業が生まれ、企業は我々のデータを少しでも多く集めようとし、オンライン体験は我々が気づかないうちに関連性にもとづいてパーソナライズされつつある。
 アメリカ人は、とても受動的にテレビ番組を選ぶ。テレビ広告はテレビ局にとって宝の山となる。受け身でテレビを見ているから、広告になっても何となく見つづける。説得においては、受け身が大きな力を発揮するのだ。
 インターネットの草創期には、自分のアイデンティティを明らかにしなくてよいことが、インターネットの大きな魅力だと言われていた。好きな皮をかぶれるから、この媒体はすばらしいとみなが大喜びした。ところが、ウェブの匿名性を排除しようとする企業が数多く出現した。
 今では、顔認識さえできる。被疑者の顔写真をとると、数秒で身元と犯罪歴が確認できる。顔からの検索が可能になると、プライバシーや匿名性について我々が文化的に抱いている幻想の多くが壊れてしまう。顔認識はプライバシーを途切れさせてしまう。うひゃあ、これは怖いです・・・。
最近のインターネットは、いつのまにか、自分が興味をもっていること、自分の意見を補強する情報ばかりが見えるようになりつつある。おもわぬモノとの出会いがなくなり、成長や革新のチャンスが失われる。世論をある方向に動かしたいと思えば、少しずつそちら向きの情報が増えるようにフィルターを調節してゆけばいい。
 うへーっ、これって本当に怖いことですよね。すごい世の中になってきましたね。とてもインターネット万歳とは言えませんよね。
(2012年2月刊。2000円+税)

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