弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年7月12日

ナチ戦争犯罪人を追え

ドイツ

著者   ガイ・ウォルターズ 、 出版   白水社

 ナチの残党の逃亡を助けるオデッサと呼ばれる組織(オデッサファイル)があり、南米に逃亡して大農場で豊かに暮らしているところを、ジーモン・ヴィーゼンタールのようなナチ・ハンターによって追跡されて摘発・逮捕された。これが私の理解でした。ところが、それがほとんど嘘っぱちだったというのです。
 オデッサなる組織はなく、南米でナチの残党が暮らしていたのを摘発したのはジーモン・ヴィーゼンタールではなかったのでした。では、いったい、誰がどうやってナチ残党の逃亡を助け、そして摘発したというのか。その点を徹底解明した500頁もの大作です。スリル小説を読んでいるような迫力さえある本でした。
ジーモン・ヴィーゼンタールはとても長いあいだ世俗の聖人扱いされてきたが、アイヒマン狩りでの自分の役割を捏造したし、それだけでなく、いくつものエピソードをでっちあげた。
 本書で、著者は、ヴィーゼンタールは嘘つき、しかもひどい嘘つきであって、その名声は砂の上に築かれていると断言しています。
ノーベル平和賞の候補者に4回もなり、フランスのレジオン・ドヌール勲章を授けられているヴィーゼンタールは、1100人もの元ナチを捕らえた。なによりアイヒマンの所在を突きとめた「功績」で有名だ。それが、みんな嘘だったなんて・・・?!
 ヴィーゼンタールが具体的に書いているとき、そのほとんどが嘘をついている。うひゃあ、ここまで断言されるとは・・・。こたえますね。
 煙に包まれているナチ逃亡援助機関は、実際には校友会組織に似ている。煙の下に一つの大きな火があったわけではなく、多くの小さな火があったのだ。
 オデッサについてのヴィーゼンタールの情報源は、疑わしい信頼できない男のものでしかない。オデッサは、作家フレデリック・フォーサイスの作った完全なフィックションだった。
 アイヒマンは、ハンブルグ近くで森林管理人として働いていた。そして、かつてアイヒマンが迫害していた者たちが彼を助けた。オーストリアへ逃げ、ジェノヴァに出て、そこで赤十字の旅券を受けとった。
 そして、ヨーゼフ・メンゲレも1949年8月に、南米のブエノスアイレスに到着した。
 アイヒマンも同じブエノスアイレスの近くに住み、ドイツから家族を呼び寄せた。ブエノスアイレスのドイツ風レストランで二人は会ったことがある。しかし、メンゲレは洗練されていて、アイヒマンは中産階級の下と目されていた。
 そして、1960年5月11日、アイヒマンは捕まった。イスラエルから派遣されてきた男たちによって・・・。ヴィーゼンタールは、アイヒマンの居所を突きとめるのに関わってはいない。厚顔無恥に自分の手柄にしたというだけのこと。
 では、誰がアインヒマンの存在を明るみに出したのか・・・?
ここで答えを書くと、アインヒマンの息子が交際していた女性がユダヤ人であって、彼の名前がアインヒマンだということを知って、遠くドイツの検察官に手紙を書いたということです。
 悪いことをしたら、いつかはそれが明るみに出るものだということですね。
(2012年3月刊。3800円+税)

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