弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年6月21日

自衛隊員の人権は、いま

司法

著者  浜松基地自衛官人権裁判を支える会 、  出版  社会評論社

 自衛官の自殺は多い。1998年に全国で75人、1999年も62人。そして、いじめが多く、それによる自殺も頻発している。
 自衛隊に対して裁判を起こすときは、調査不足のため弱点を突かれないよう、訴状を出す前に十分に調査しておく必要がある。相手は閉鎖社会なので、すべての情報と資料は自衛隊が独占している。
徒手格闘は、銃剣格闘、短剣格闘と並ぶ、自衛隊格闘術の一つ。武器が使用できない状況下で、素手で敵を倒すために編み出された。
 このところ、格闘訓練に名をかりたイジメやしごきが行われている。
なぜ自衛隊員の人権侵害が起こるか。その一つに、軍隊としての本質の問題がある。軍は武器をもって外敵と対戦する戦闘集団である。ここでは、戦時、通常の道徳規範に反する器物損壊、人員の殺傷が公然と行われ、生命を省みない危険な行動が求められる。そこで、軍では、軍人の基本的な人権が制約され、組織に特別の秩序を科し、任務を強制するなど、行動を強く規制する必要がある。
 要するに、「軍紀」とは通常の「道徳規範」とは正反対の、一般社会では許されない器物の損壊、人員の殺傷などの戦争遂行行為を、命令・規律という強制力をもって、自他の生命を省みないで行わせることにある。ここに、兵士の人権保障と軍隊の職務とのあいだの本質的な矛盾が存在する。
 自衛隊では、服務指導は、勤務に関する事項のほか、私生活にわたる事項もふくめ、組織に影響するものは、すべてを対象とする。これは隊員が職務に専念するためであり、隊員間の心情把握および私的な悩みに注意するとともに、任務遂行に支障を来す範囲の事項の除却にある。つまり、このように自衛隊では公私の区別がなく、プライベートの部分も自衛隊はきちんと把握している。
 ドイツには軍事オンブズマンが軍隊の中に置かれていて、軍隊をコントロールする一つの仕組みとなっている。ドイツの軍事オンブズマンは、連邦議会の指名により、議会の補助機関として置かれている。
 軍事オンブズマンにはスタッフが50人いる。軍事オンブズマンは年間6000件の苦情を処理している。一人の兵士を大切にすることが、軍隊を誤らせないことにつながるという考え方にもとづいている。
自衛官も、国民の一人として、憲法で保障された人権は守られなければなりませんよ
ね。全国25万人の自衛隊の人権を守ることは、私たち日本国民全体の人権を守ることに直結しているものだと痛感しました。私と同期の岡田尚(横浜)、塩沢忠和(浜松)という弁護士2人がこの分野でも活躍しているのを知って、うれしく思いました。
(2012年3月刊。1800円+税)

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