弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年6月13日

フィンランドに学ぶべきは「学力」なのか!

社会

著者  佐藤 隆、 出版  かもがわブックレット

 フィンランドは「学力世界一」として評判になっています。この本では、「学力」とは何なのか、それ自体を問い直してみる必要があると強調しています。
 教育の目的が、「学力向上」の一点に焦点化されるという事態は、果たして正しいことなのか?
メディアはこういう。「今の日本の子どもの学力は落ちている。だから『たたき直して』昔のように学力を高めるのだ。そうしないと日本は心配だ」
全国一斉学力テストは、学校を今以上に文部省の思いどおりに動くものに変えるためのもの。学校同士が競い合うような構造をつくりたいという狙いである。
 日本の子どもは、ふだんの授業では扱われないような問題やあまり考えたことのない問題には戸惑ってしまう。あるいは、分かっていても自信がもてない。まちがったら恥ずかしいという感覚をもっている。
 今の日本社会は、政治や企業の世界で嘘やごまかしがまかり通る社会になっている。
 ところが、フィンランドでは、汚職や公約違反が少なくない。大人が慎ましく誠実に生きることを大切なことだと考え、それを実行している社会で育つ子どもは、いつのまにか同じ価値観を身につけていくだろう。反対に、日本のように自分の利益のためであれば何をしてもよいのだという政治を見せつけられている子どもは、安心して育つことができない。
 本当にそうですよね。マニフェストだとか言って当選したら、そんなものは知らんと放り出す政権与党と政治家を見せつけられたら、誰だって大人というか人間を信じられなくなります。まさに、教育問題とは大人の問題ですね。
 フィンランドでは、どの教室も静かで落ち着いている。教師も子どもも、ゆったり話をする。手をあげた子どもは自分の順番が来るまで、静かに待つ。クラスのサイズは小さく、多くても20名ほど。待っていたら、ちゃんと自分の話を聞いてもらえる。
フィンランドでは、どんな教科書をつかって、そんな方法で授業するのか、すべて個々の教師にまかされている。
 信頼されるということは、何にもましてやる気にさせてくれること。ところが、フィンランドでも、学校の独自色や暖かな励ましの雰囲気が薄れようとしている。それでもフィンランドの教師には、たっぷりの休養と権利としての研修、そして安定的な身分の保障が十分になされている。だからこそ教師は教育の自由と責任の自覚のもとで子どもや保護者と対話しながら、誰もが納得できる教育的な判断を下すことができる。
日本がフィンランドに学ぶべきものが見えてきた思いがしました。私たち日本人の大人の責任が大きいことを痛感します。教師を叩いて日本の国がよくなるはずはありません。わずか60頁の薄いブックレットですが、しっかり考える材料がきちんと盛り込まれています。価値ある600円でした。
(2009年11月刊。600円+税)

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