弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年5月15日

ルポ 良心と義務

社会

著者   田中 伸尚 、 出版   岩波新書

 「日の丸・君が代」に抗う人びと。これがサブタイトルとなっている本です。どうして日の丸・君が代の押しつけにあんなに狂弄するのか、不思議でなりません。だって、昔と違って、祝日に日の丸を揚げる家庭なんて、とんと見かけなくなりました。「君が代」なんてあの暗い、重苦しい、間のびした歌をうたっても、本来、気分を高揚させるべき儀式のそえものにもなりません。そして、あの歌詞の意味を理解している人なんて、どれだけいるでしょうか・・・。ところが、学校でだけは違います。目の色を変えて、教師と生徒たちに強制します。そこには多様性を育(はぐく)むという視点はまったく欠けています。なんという、お寒い教育現場でしょうか。要するに、そこにあるのは、上からの露骨な教職員統制です。教える側が萎縮していて、子どもたちが健やかに育ち、伸びるはずもありません。
 この本は、「日の丸・君が代」に今なお反抗する人が日本全国に存在することを明らかにしていると同時に、おおかたの人はあまりのバカらしさに口をつぐんでしまっている現実も紹介しています。私も、どちらかと言えば後者のタイプです。
 教頭は、「君が代」をうたえないと、一人前の大人になれないなどと言って生徒たちを脅す。うひゃあ、「君が代」なんて歌えなくても「一人前」の大人に誰だってなれますよ。なんということを、この教頭は言うのでしょうか・・・。
 在日コリアンは、大阪市生野区に次いで、東大阪市に多い。
 前は、校長は、「これより国歌斉唱しますので可能な方はご起立ください」と言っていた。しかし、今ではそんなことを言うのは許されない。
 橋下徹は、大阪府知事時代(2011年6月29日)、「今の政治に一番重要なことは独裁。独裁と言われるぐらいの力。これは、僕は今の日本の政治に一番求められていると思う」と語った。そんなことを語る人物に圧倒的な人気が集まる状況は、きわめて深刻である。
本当にそうですよね。反骨精神の人が多いはずの大阪人は、今、どうなっているのでしょうか。
 最近の新聞(5月2日)に、橋下の率いる維新の会市議団が上からの役員任命はおかしいと騒ぎ立てている記事がのりました。独裁はしたくても、されたくはないっていうことですが、ホントそうですよね、誰だって・・・。でも、橋下人気に頼って当選した市議会議員が独裁されるのは嫌だと騒ぎ立てるなんて、まさにマンガです。ただし、笑っているだけですまないのが残念です。
 教員を黙らせ、校長を支配下に置くためには、「日の丸・君が代」は最も有力な手段だった。今では、徹底的に洗脳され研修がくり返されている。強制を強制と感じない教員がフツーになっている。物言わない教員が最近たくさん出てきている。最近の若い教師は、マニュアル化された人が多く、与えられたものをこなすだけになっている。
最高裁判決で多数意見に反対した一人である、宮川光冶判事の次の意見は傾聴に値します。
「教育公務員は、一般行政と異なり・・・・教育の自由が保障されており、教育の目標を考慮すると、教員における精神の自由はとりわけ尊重されなければならない。
 自らの真摯な歴史観等に従った不起立行動等は、その行為が円滑な進行を特段妨害することがない以上、少数者の自由に属することとして、許容するという寛容が求められている」
 もっと教育現場を自由な雰囲気にして、のびのび教師も子どもも学び過ごせるようにしないと日本の将来は暗いものになってしまいます。
 読めば読むほど、なんだか暗い気分に包まれていく本でした。でも、現実から目をそらすわけにはいきません。日本の現実を知るためにお読みください。
(2012年4月刊。760円+税)

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