弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年5月12日

過労死・過労自殺、労災認定マニュアル

司法

著者  川人 博 ・平本 紋子  、   出版   旬報社

 身内が亡くなったことを前提として相談を受けているときに、それって過労死じゃなかったの・・・・?と思うことがあります。でも、遺族はなかなか問題にしようとはしません。生前、故人が世話になった会社に弓を引くわけにはいかないという気持ちからです。
 そんな人たちに気軽にすすめることのできるのが、この本です。マニュアル本として、とても実践的な内容です。本文100頁のQ&A方式で実践的かつ明快です。
 「もう疲れました」「悪いのは自分です」という遺書があっても労災と認めなられる。かつては、遺書があれば「故意」による覚悟の自殺だとして業務外とされることが多かった。現在では、遺書にみられる心身の状況や業務に関連する記述が本人の精神障害の症状や業務上の心理的負荷を証明するものとして積極的に評価されることがある。
 労災申請書を出そうとして会社が証明書を書いてくれなかったときには、そのことを書いた証明文をつけて監督署に提出すればいい。
ひどい長時間労働しながら、タイムレコーダーがそうなっていないときには、会社に残ったパソコンで稼働状況を証明する。そのための裁判所の証拠保全手続のときには、パソコンの専門家であるシステムエンジニアを同行して確実に保存する。
 電子的な記録がないときには、同僚から聞き取って報告書をつくる。
つぶれかかっている会社のようなときには、代表取締役個人に対する侵害賠償請求も考える。
 会社と示談するときには、労災保険とは別のものであること、慰謝料であることを明記しておく。慰謝料には所得税がかからない。
著者は私と同じころに大学生でした。今では過労死問題の第一人者です。そのうえ、東大駒場で有名な「川人ゼミ」を1992年から続けています。たいしたものです。引き続きがんばってください。
 著者より贈呈していただきましたので、感謝の気持ちをこめて紹介させていただきました。
(2012年5月刊。1200円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー