弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2012年4月17日
レベル7
社会
著者 東京新聞原発事故取材班 、 出版 幻冬舎
すべての危機は警告され、握りつぶされていた。これはオビの文章です。
まさしくそのとおりなのです。福島原発事故については、私たち国民に隠された真実があまりにも多すぎます。政府が偽りの「収束宣言」をしたことから、原発事故がなんとか「解決」に向かっているかのような幻想に浸っている日本人が多いのが残念でなりません。
メルトダウンの事態は今でもよく解明されていませんし、放射能物質は空にも海にも、今もって大量に放出されているのが残念ながら現実だと思います。ところが、海の汚染にしても「風評被害」を拡大させないためという口実でほとんど明らかにされていません。とんでもないことです。福島第一原発による汚染程度を正確に知るには、日本のマスコミ報道よりも海外とくにヨーロッパの方が正確で速いとまで言われているのは悲しいことです。
原発にとって水は、血液のようなものである。その水が地震によって止まってしまったのだから、事態は本当に深刻だった。原子炉に入れた水は、核燃料の熱でどんどん蒸発する。水を入れ続けなければ、やがて核燃料が水面から完全に露出し、空焚きの状態になる。核燃料を覆っているジルコニウム合金の被覆菅が熱で溶けると、水蒸気と反応して水素が発生する。それが原子炉から、さらに格納器の外に漏れ、酸素と反応すると爆発する。おお怖いです。
福島第一原発には6個の原子炉と10個の使用済み核燃料プールがある。20キロ圏内の第二原発までふくめると10個の原発と11個のプール。これを全部立ち入り禁止区域にして一般の人みたいに東電の社員が逃げ出したら、どんどんメルトダウンしていく。撤退なんかありえない。撤退していたら、東京には人っ子一人いなくなってしまう。これは菅首相(当時)の言葉です。
このままでは、東日本全体がおかしくなる。決死隊をつくろう。日本の国が成り立たなくなる。命をかけてください。逃げても逃げ切れない。
これも菅首相の言葉です。首都圏から3千万人を脱出させる必要があるという想定が立てられたのです。3千万人の緊急脱出なんて不可能ですよね。いったい、どこへどうやって3千万人もの人々が移動できるというのでしょうか。
福島第一原発の吉田所長(当時)は、実は、東電本部にいて津波の影響を低く見積もることにしたつまり、インチキ見積した張本人の一人です。そして、現場で指揮せざるを得なくなったのでした。歴史の皮肉といえるかもしれません。でも、笑っている場合なんかではありません。やはり、東電という組織自体に大きな責任があると思います。原発が安全だなんて幻想をふりまき、現実には十分な安全対策を講じなかったわけですから。
最後に、政府が昨年暮れに発表した廃炉に向けての工程表を改めて紹介します。
2013年のうちに、4号機の使用ずみ核燃料プールから核燃料の取り出しを始める。10年以内に1~4号機すべてで使用ずみ核燃料の取り出しを終える。放射能に汚染されたたまり水の処理を終えたあと、溶融した核燃料の取り出しを始める。最終的に原子炉を解体するのは、順調に行っても30~40年後のこと。ええっ、そんなにかかるものなんですか・・・・。団塊世代の大半がそのころは消滅してしまっていますよね。
事故から核燃料の取り出しまで6年半かかったスリーマイル島原発では処理費用が
750億円かかった。今回は、その比ではなく、廃炉に1兆1500億円は少なくともかかると見込まれる。さらに、そのさきには大量の放射性廃棄物の処分が待っている。現状は、地層処分の技術は確立しておらず、候補地は白紙のまま。
本当に深刻です。こんなとてつもない危険な原発は、すぐにやめてしまわなければなりません。今すぐに廃炉にむかっても、何十年とかかるというのですからね・・・・。
(2012年3月刊。1600円+税)
日曜日に福岡で映画「アーティスト」をみました。偶然にも、後ろの席に宮川弁護士がおられました。今どき珍しい白黒のサイレント映画です。ところが、実に表情豊かで、こまやかなので、字幕とあわせてスムースに感情移入できました。さすがはアカデミー賞をいくつもとった作品だけあります。サイレント映画から音の出るトーキー映画へ移行するときの悲哀がテーマとなっています。いつの世にも時代の変化についていけない人、ついてきたくない人はいるものです。もちろん、変化を追いかけるばかりでも困りましょうが・・・。
最後のペアのタップダンスだけでも十分に見ごたえがあります。さすがは役者です。半年の練習でやりきったそうです。見事でした。
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