弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年3月22日

モノづくりの経営思想

社会

著者   木下 幹彌 、 出版   東洋経済新報社

 日本は加工貿易国、貿易立国でしか、国家として生きる術はない。日本は資源・資材のない無資源国で1億人以上の人間が生きていくには、どうしても海外から調達した物資を加工し、それを輸出して稼ぐより、日本国民すべてが食べていくことはできない。
 国を守るためには愚直ながらも、モノづくりを日本国内で続けていくことが重要だ。この点は私もまったく同感です。日本国内でのモノづくりを大切にすること、そのためのマンパワー、人づくりそして人材の確保がなにより大切だと思います。それは目先の株主配当より何倍も優先されるべきものと考えます。同時に、日本国内の需要もまた重視すべきです。消費冷えをもたらす消費税率アップは、それに明らかに逆行します。日本は内需とモノづくりで繁栄してきたし、それしか今後も生きのびることは出来ないと思うのです。
 ほとんどの企業の営業は、仕事の80%はクレーム処理と納期管理に追われている。
 ふむふむ、これは知りませんでした。クレーム対応と納期管理は企業にとって、それほど重要・不可欠なのですね。
 この本は、NPS思想を普及しようというものです。それは、小さな設備、少ない人数、少ない仕掛け、そして不良品なしでリードタイムの短い製造技術を確立することを目ざします。
 外注は割高である。外注には2種類ある。手足となってくれる外注、つまり協力企業。そして、必要なときだけ仕事を頼む、松葉杖的な役割の外注。
 技術の社内伝承という点からみると、外注は結局のところ割に合わない。
 なーるほど、社内で技術を高め、そして伝承していくべきなんですね・・・。
 アメリカのGMの失敗は、企業規模を追及した寄せ集めでは、いかに巨大であっても、事業としては永続できないことを証明した。これまた、なるほど、ですね。
 競合企業や隣接業種の大手企業との合従連衡は、苦労と費用ばかり大きく、本当の意味で企業のプラスになるような果実はなかなか得られない。
 大手の銀行がいくつも合併していますが、なかで働く人々は今どんな気持ちなんでしょうか・・・。
在庫は罪子(ざいこ)。必要以上の在庫は、経営の圧迫要因である。資金繰りを悪くするし、倉庫代や人件費をふくらます。
 人間は体力と気力の両方によって生きる力を与えられている。割り切って、自分は運が良いのだと言い聞かせて今を生きるのが大切だ。その結果が後から見てどうであったかをいま気にしてばかりいると、なんの道も開けない。
 実は、私も、自分は運が良いと言いきかせて、不都合なことも自分有利に解釈して生きてきました。
上司は部下を安易にほめてはいけない。ほめてしまえば、その時点で進歩が止まってしまう。
 ええーっ、ほめて育てよ、ではないのですか・・・。たしかに、これにも一理はありますよね。
 日本の政治、経済のリーダーの愛読書が、そろいもそろって司馬遼太郎か塩野七生の本だというには閉口させられる。その本を読み、それだけを良書と感じているような人たちばかり集まれば、思考、知識、理論が似通ってしまい、現状を打破するような抜本的な発想、つまり、シンの戦略は生まれない。「坂の上」をもう一度といった調子で、現代日本に坂本龍馬のような志士、カエサルのような政治指導者、マキャベツのような戦略家といった人物の出現を期待するのは、あまりにも非現実的であり、リーダーとして無責任である。
 私は、なるほどと膝を打ちました。そうなんです。「英雄」待望論が橋下などというまやかしの人物に幻想を抱くもとになるのです。
 この本の言いたいことを理解したとは思えませんが、なかなか含蓄のある話が満載ではありました。
(2012年1月刊。1800円+税)

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