弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年3月21日

概論アメリカの法曹倫理

司法

著者   ロナルド・D・ロタンダ 、 出版   彩流社

 沖縄の当山尚幸弁護士(元九弁連理事長)が翻訳した本です。すごいですね、340頁もの本を訳して出版したとは。大いに感嘆しながら、そして内容としても難しい論点をやさしく解説してあることに驚倒しながら読みすすめていきました。
いま、私は弁護士会の中で弁護士倫理にかかわる手続に関与していますが、そこで取り上げられているケースには、かなり微妙なところが少なくないことがあって、本書はその意味でも役に立ちました。
依頼者は、いつでも弁護士を解任できるし、弁護士はたとえ解任理由が釈然としなくても手を引かなければならない。
そうなんですよね。解任されたとき、良かったと思うこともあれば、なぜなのか納得できない思いが残ることもあります。
弁護士は、より短い時間で効率的に仕事を処理すべきである。より効率よく仕事をする弁護士は、たいていより高い時間給を請求する。これは許されるが、時間の架空計上をすることは許されない。
報酬の妥当性を判断するときに重要なことは、依頼者を欺いていないか、信頼関係を悪用していないか、あるいは報酬の内訳その他の関連事項の説明が誠実でなかったかどうか、などである。
 完全成功報酬契約は、弁護士の利益のみのためにあるのではなく、それを望む依頼者の利益のためにあるべきものである。
 ホットポテト法則というのがあることを知りました。要するに利害相反の事件は受けられないということです。私の法律事務所も、いまでは弁護士が6人もいますので、「敵」側の関係者が相談に来ることを見逃してしまうことがあります(事前チェックを励行しているのでが・・・)。そのときには、潔く双方から手を引けという法則です。せっかくの事件を受任できなくなって「損」した気分になることもありますが、あとで疑われるよりはましだと自分に言いきかせています。
弁護士は依頼者に対し、生活費を貸しつけたり、保証人になったりして、訴訟を「援助」してはならない。ただ、弁護士が裁判費用や訴訟費用を立て替え、その返還を訴訟の成功にかからしめることを禁じてはいない。
 もしも依頼者が偽証しようとするときには、弁護士は拱手傍観してはならない。弁護士は、その偽証を明示する必要がある。
 依頼者が偽証の供述をしていることが分かったときは、弁護士は詐欺的行為を防止する合理的手段を講じなければならない。まず弁護士は依頼者に証言の訂正を忠告すべきである。それが奏功しないときには、裁判官に偽証を知らしめるなどの他の措置を講ずる必要がある。
 依頼者が偽証したことを知ったとき、弁護士は辞任することがありうる。しかし辞任の事実を公表すること自体が依頼者の秘密を害するときには、どうするか。依頼者は弁護士に辞任を公表しないで忍び足で静かに去ってほしいと願う。しかし、弁護士はそれでは足りない。ここらあたりになると、大変微妙なところだと思います。
弁護人の守秘義務など、日本とアメリカは法制度としての違いは大きいのですが、共通しているところも多々あると思いながら読みすすめていきました。当山弁護士の「あとがき」によると、3年がかりの翻訳とのこと。まことにお疲れさまでした。大変勉強になりました。
(2012年2月刊。2800円+税)

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