弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年3月 6日

原発訴訟

社会

著者   海渡 雄一 、 出版   岩波新書

 著者は現職の日弁連事務総長ですが、ながらく弁護士として全国の原発訴訟に関わってきました。
 司法は破壊的な原発事故の発生を未然に防ぐことが出来なかった。四国・松山にある伊方原発訴訟について、最高裁は次のような判断を示した。
 「原子炉施設の安全性が確保されないときは、この原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命・身体に重大な危害を及ぼし、周辺の環境を放射能によって汚染するなど、深刻な災害を引き起こすおそれがあることにかんがみ、この災害が万が一にも起こらないようにするため、原子炉設置許可の段階で原子炉を設置しようとするものの技術的能力ならびに・・・・施設の・・・・安全性につき、科学的、専門技術的見地から、十分な審査を行わせることにあるものと解される」
 違法性を判断するにあたっては、処分の時点ではなく、現在の時点、つまり裁判で審理がなされている時点であると明示されている。そして、被告行政庁が安全に関する主張・立証を尽くさないときには、行政庁がした判断には不合理な点があることが事実上推認される。
原子力発電所は、いくら安全確保対策を充実させたとしても、事故の可能性を完全に否定することはできません。
 もんじゅをめぐる裁判については、毎月1回、朝10時から夕方5時半まで口頭弁論期日を開いた。争点に関するプレゼンテーションを実施し、裁判所は自由に心証を形成していった。
青森県にある大間(おおま)原発は日本の核燃料サイクル政策破綻の象徴のような原子炉である。この実験炉ともいうべき原子炉を建設している電源開発は、過去に原発を保有したことがない。
日本国内に設置された原発のなかで、地震や断層の影響を受けないと言い切れる原発はない。1994年から2003年までに発生したマグニチュード6.0以上の地震960回のうち、220回が日本で発生した。世界の大地震の5分の1が日本列島と、その近くで発生している。
 福島第一原発事故において、東京電力が十分な津波対策を講じなかったことは、民事上の過失のレベルではなく、刑事上の犯罪を構成する可能性も考えなければならない。あの天下に名高い東電の歴代社長・取締役をこのまま不問に付していいなんて、とうてい思えません。皆さん、いかがですか・・・?黙って見過ごしていいと思いますか。
 地震、津波による原発の損傷から炉心溶融(メルトダウン)に至った今回の事故は、あらゆる観点からみて明らかに事前に想定できたものであり、東京電力の損害賠償責任は揺るがない。原発事故による損害賠償の枠組みについては、まずは東京電力の現有資産による賠償がなされるべきである。それで不足する部分については、被災者の支援のために国が上限を定めず援助する義務を法律上確定すべきである。
原発をめぐる訴訟に自ら長年にわたって関わってきただけに鋭い論評が各所にみられる本です。ぜひ、あなたも手にとって、ご一読ください。
(2011年11月刊。820円+税)

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