弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年2月19日

西の魔女が死んだ

社会

著者   梨木 香歩 、 出版   新潮文庫

 わずか20頁あまりの薄い文庫本ですから、旅行の友として持ち歩いてみてはいかがでしょう。読後感も爽やかで、すーっと心が軽くなっていきますよ。
 中学生のころって、大人にはまだなりたくないけれど、もう子どもではないと宣言したくなる自分がいるじゃないですか。でも、やっぱり子どもの時代のままでもいたいし・・・。
 親からは早く自立したい。いろいろ親から言われると、それがたまらなくうっとうしい。でも、そうは言っても中学生が一人で自活できるわけでもない。友だちも深く突っこんで話せるような人はいない。心を許せる友人って、意外にいないもの・・・。
 主人公のまい(女の子)も登校拒否になってしまいます。ずっと優等生できたのに・・・。
 扱いにくい子。生きにくいタイプの子。母親からも、こんなレッテルを貼られてしまうのでした。そこで、まいは、田舎のおばあちゃんが一人住む家にしばらく預けられることになったのです。このおばあちゃんは、なんと日本人と結婚したガイジンさんなのです。自然のなかでゆったり過ごすおばあちゃんの家で生活しているうちにまいもいつのまにか生きていく自信を取り戻すのでした。
私自身は、小学校のころまでは家一番の笑い上戸でした。よく母親から、あんたは箸が転んでも笑う子だねと言われていました。ところが、中学生になると、親とはほとんど口を利かなくなりました。そして、高校生になると、優等生でしたから、親からガミガミ言われることはありませんので、内心、親を小馬鹿にしていました。自分ひとりでこの世に生まれ育ち、大きくなったかのような錯覚にとらわれていたのです。
 大学に入って、いろんな境遇の人と交わるようになって、自分が間違っていたことが少しずつ分かるようになりました。そして、弁護士になって10年ほどして、父親がガンにかかってから、その生い立ちを記録しようと思いたち、聞きとりを始めてその苦労を知ると同時に、親の歩みが実は日本の戦前戦後の歴史そのものだということを知って、大変な衝撃を受けたのでした。父そして母の伝記を本にまとめたのですが、私にとっても感銘深い冊子です。
 自分を見つめるには、なかなか時間がかかるものだということを実感させられる、いい本でした。
(2002年9月刊。400円+税)

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