弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年2月 7日

東電解体

社会

著者  奥 村  宏 、 出版   東洋経済新報社

 あれだけの犯罪的大事件をひき起こしていながら、東電の会長は今も、そのまま居座ったままです。なんという厚かましさでしょう。人間(ひと)の心をとっくに失っているとしか思えません。この本も、その点を鋭く追及しています。
 東京電力は福島第一原発の事故で放射能を放出し、多くの人に危害を与えたにもかかわらず、なんらの刑事罰も課せられていない。問題になっているのは損害賠償だけ。人を傷つけてもカネさえ払えばすむ、というような国はどこにもない。
 法人に刑事責任はないのか? もちろん、企業犯罪は成立します。東電の歴代取締役が自己の得ている莫大な取締役報酬を返上したという話はどこにもありません。私は、東電の社員に給料を支払うなとは決して言いません。
 しかし、原発の危険を知ったうえで、それを故意に過小評価して無策・怠慢であり続けた歴代の取締役全員には厳しい責任が当然追及されるべきだと思います。今回の事故のあと東電の取締役が一人も刑務所に入らないというのは日本の検察そして司法の重大な汚点になるとさえ私は考えます。
東京電力は、民間企業としては世界一である。売上高5兆円、総資産13兆円。東京電力のトップが経団連の業議員会議長から副会長、そして会長へというコースをたどることがルール化されてきた。
 電力総連は、加盟組合230組合員数21万5千人。連合に加盟し、民主党を支持し、原発推進を方針としている。これって、労働組合の本来の姿なのでしょうか。せめて、今は脱原発を唱和してほしいものです。
日本航空(JAL)も倒産してその株券はタダの紙切れになってしまった。銀行も債権を放棄した。しかし、東京電力については、減資もしなければ、債権放棄もない。JALと違って、異例の優遇である。 
 国民の税金で損害賠償を肩代わりしてもらって、普通の会社として存続し続ける。そんなバカな・・・。国民の税金で救済されながら、銀行も株主も損をしないで、会社はそのまま存続する。これほど不思議な話はない。
 いったい会社とは何なのか、何のために存在するのか、東電の会長を思い浮かべながら、腹立たしさを抑えきれずに読み終えました。

(2011年11月刊。1600円+税)

 日曜日、天神で映画『サラの鍵』を見ました。本も良かったけれど、映画も素晴らしい出来でぐいぐい画面に引き込まれ、泣けて仕方がありませんでした。
 1942年7月パリで起きたユダヤ人強制連行事件を扱っています。『黄色い星の子どもたち』も同じ事件を扱っていました。
 弟を死なせてしまったという後悔がずっと尾を引いていきます。人間って簡単には過去から逃げきれないのですよね。忘れ去ってしまいたいけど忘れられない。そして、ときに過去は振り返る必要があります。
 映画を見終わって映画館から出ると、小雨がパラついていました。心のほこりが洗い流されたようなすがすがしさを感じました。
 この日は夜寝るとき、映画の場面を思い出し、つい涙がこぼれてしまいました。

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