弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年1月27日

狡猾の人

社会

著者   森 功 、 出版   幻冬舎

 狡猾(こうかつ)って、ずるがしこいという意味ですよね。防衛省のトップの事務次官として4年間も居座り続け、ついには防衛省の天皇とまで呼ばれた高級官僚について書かれた本です。この本を読むと、防衛族なる国会議員、防衛省のトップそして自衛隊の高級将官が日本の国土と国民を守ると豪語しながら、実は、それは単なる口実であって、要するに自分とその家族を守ることにしか念頭にないことがよく分かります。こんな人たちに日本人は愛国心が足りないなんて言ってほしくありません。
 軍需産業が昔からボロもうけだったのは、まさにそこが競争のない世界だからです。定価なんてまるでありません。戦車1両が10億円とするとメーカーが言えば、防衛省は値切ることもなく、はい買いましょう、100両買いましょうなんて言って、惜しげもなく税金を注ぎ込むのです。もちろん、そこには中間に介在する人々へのもうけもしっかり保障されています。防衛省そして軍需産業のえげつなさが暴露され、お金のためには国すら売り渡してしまう人々が、表向きは愛国心を鼓舞していると言うことが分かって嫌になってしまいます。
 日本政府は1機100億円するE-ZCを13機購入した。1300億円だ。ところが、今度はAWACSを買うという。AWACSは550億円もする。このAWACSを3機も購入しようという。
日本って湯水のようにムダなところにお金をつかうのですね。だって、これって、日本の国土を守るというより、アメリカ軍のお先棒かつぎというだけなんですよ。
 自衛隊の装備の購入の7割が一般競争入札で随意契約は3割。ところが、これは件数の比率であって、金額のみでみると逆転する。7割が随意契約である。航空機や戦車などは主要なものは、みな随意契約。
 要するに軍需メーカーの言うとおりに国は買っているというわけです。
軍事装備は市場性がない。競争相手なんていないから、定価というものが考えられない。水増し請求は日常茶飯事である。防衛省には、メーカーの提示する価格を徹底的に検証する能力はない。だからメーカーの言い値どおり買うしかない。
仲介する商社の手数料は代金の1.4%と決まっているから、民間の取引場である10%の手数料にあわせるため、価格の水増しが起きる。
 守屋武昌元次官は自民党の防衛族として有名な石破茂元防衛庁長官を口舌(こうぜつ)の徒と評する。さらに、田母神俊雄・元航空幕僚長についても、ジョークが得意だけで、本来、幕僚長になるような器ではなかったと酷評する。
 アメリカは自動車産業は日本に負けたが、航空機と宇宙産業は手放さない。日本の参入を許さない。アメリカのものを買えと、露骨に要求し、日本政府はそれ唯々諾々と従っている。
 4年間も防衛庁の事務次官を務めた守屋武昌の退職金は6000万円だった。うひゃあ、これって、やっぱり高すぎますよね。防衛省って、そこにいる人たちの生活を防衛する、名ばかり官庁のようです。
(2011年12月刊。1400円+税)

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