弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2012年1月19日
国家と情勢
司法(警察)
著者 青木理・梓澤和幸ほか 、 出版 現代書館
この本を読むと、警察って罪なき人々を無用に関しして、「犯罪」をつくりあげるところなんだなという感想と同時に、こんなマル秘のデータが外部に流出するなんて、日本の警察もたいしたことない役所だね、そんな哀れみすら覚えます。
後者のきわめつけは、国際テロリズム緊急展開班の班員名簿として13人の現職警察官の個人情報が詳細に記載されたものが外部に公表されていることです。なにしろ、公安機動捜査隊第三公安捜査班所属で警部補とか、自宅の住所、家族全員の氏名・年齢、職業、同居の有無、健康状態まで記載されています(2008年9月12日現在)。この本では黒塗りしてありますが、どうやら顔写真もついているようです。先日のアメリカ映画『フェア・ゲーム』じゃありませんけど、当局がCIA捜査官を自ら暴露したのとまるで同じです。
今回流出した警察資料の大半は日本のイスラム教徒関係の監視状況をまとめたレポートです。何も犯罪とは関係ないのに、イスラム教徒だからというだけで監視対象として尾行・監視していたというのは許せませんし、まったく税金の無駄づかいの典型です。400頁もある分厚い本ですが、その半分以上は流出した資料です。黒塗りしてありますので、「面白さ」は半減しますが、これが自分のことだったらぞっとしますよね。ですから黒塗りするのは当然です。ところが、黒塗りしないまま公刊しようとした出版社があるというのですから驚きました。さすがに裁判所は出版差止を命じたようです。
情報が流出したのは、2010年10月30日のこと。流出した資料は114点、1000頁ほど。警察は、流出した情報が警察由来のものだとなかなか認めず、2ヶ月後にようやく認めた。この差によって、被害拡大を防止する措置が遅れた。
警視庁では、1995年当時、刑事部の捜査第1課に300人の捜査員がいた。ところが、公安部公安第1課は、それより多い350人もいた。刑事より公安が多いだなんて・・・。
ながく警察官僚のエリートコース、出世コースは警備・公安部内とされてきた。警察庁長官は、ずっと警備・公安部門の要職を歴任した人物で独占されてきた。
ところが、今や公安警察はジリ貧状態にある。公安部公安第1課も230人になっている。そして、2002年、警視庁公安部に新設された外事第3課は、34年ぶりに新しくもうけられた課である。公安警察がじり貧状態から抜け出し、反転させられるかもしれない期待の課が新設された。この外事第3課は当初70人から今では150人もの捜査員をかかえる大世帯となった。
警視庁は都内に16あるモスクの全部について、人の出入状況、出入車両その他をことこまかく情報を収集している。そして、イスラム周辺支援組織として39団体が情報収集の対象となっている。そのなかには、国境なき医師団や、ユネスコ・アジア文化センター、はてはJICAまで監視対象団体とされている。JICAって、準政府機関ですよね。ここまで監視する警視庁って、一体何なのでしょうね・・・?
ジャーナリストは、外事第3課がなぜできたのかという理由を、それは公安がヒマだからだと断言しています。これは、公安調査庁と同じですよね。日本共産党を監視するということで存在価値があるかのように見せてきた公安調査庁は共産党が国会でそれなりに定着して、一定の支持を得てしまうと無用の長物視され、あやうく廃止寸前にまで追い込まれてしまいました。それを救ったのが、かのオウム真理教でした。でも、オウム真理教の監視って、なにも捜査能力もない公安調査庁がやらなくたっていいのですよね。それなのに、まだ居座ったままです。公務員減らしをやるとすれば、まっ先に公安調査庁を対象とすべきだと私は思います。
同じジャーナリストは、150人の捜査員のいる外事第3課の生き残り策として、イスラム教関係者の監視をするという「仕事」をつくり出したのだと断言しています。
あーあ、やんなっちゃいますね。無用の仕事、まったくの税金のムダづかい、そして、罪なき人を危うく「犯罪」者に仕立てあげ、世間の誤解をかきたてる。自分の子どもに、お父ちゃんの仕事は何をしているんだと胸をはって言えるものではありませんよね。これって・・・。哀れです。そして、こうやって情報が流出していき、個人情報が広く流出してしまうと、それが一人歩きして、あたかもテロリストと関係あるかのように世間から誤解されてしまうのですから、たまったものではありません。
アメリカでも似たようなことが起きていると聞きましたが、日本でもこんなことが起きているのですね。恐ろしい世の中です。
(2011年10月刊。2200円+税)
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