弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年1月17日

「子どものために」は正しいのか

社会

著者   金森 俊郎 、 出版   学研新書

 なるほど、なるほどと同感できるところの多い本でした。
 最近の子育てや教育は過程を軽視しすぎではないのか。「できた」という結果のみに目を向けるから、「できない」と自信を失い、立ち直れない。自信を失ったときに支えてくれる友だち、人間関係がないから、自己否定や自己喪失感に襲われる。
 温かい人間関係がなければ、人は生きていけない。人間が孤独でつらい、苦行になってしまう。今の子どもたちがどれだけ傷ついているか、大人は気がついていない。それが一番怖い。
 これって、橋下徹に聞かせてやりたいセリフですよね・・・。6人の子の親として、自信満々なのでしょうか?もし、本当にそうだとしたら、それはそれで怖いことですね。
 「できたこと」だけをほめていたのでは、子どもは「できたこと」しか報告しなくなる。「できなかった」ことを恥じ、自分を追い詰めていく。何より、「できる」までのプロセスの尊さに気がつかなくなる。努力した自分、励ましてくれた友だち、教えてくれた大人といった豊かな人間関係があってこそ出来たのだということに目が向かなくなり、「できた」のも「できなかった」のも、自分一人の手柄であり責任であると孤立化してしまう。
 私が司法試験を目ざして苦しい受験生活をしていたころを急に思いだしました。もちろん勉強自体は一人机に向かうことが多かったわけですが、周囲にいた友人たちのときどきの励ましが、私を大きく支えてくれていました。
 困っている子どもに「がんばれ!」とだけ言ってもダメ。がんばれないから、その子は困っているのだから。子どもの弱さを一方的に非難せず、パパ(お父さん)も、そうだったと共感し、理解を示す。子どもから話を聞き出す前に、まず親が語り込むことだ。励ましや説教ではなく、自分の体験、生き様を語るのだ。
 親が自分の体験を語ると、子どもは共感し、安心する。言い出す素地ができる。
 そのとき、場所選びも大切だ。散歩に連れ出したり、河川敷に並んで座ったりして、話しやすい雰囲気をつくることだ。
 子どもの受ける苦しみに共感して、寄り添ってくれる人がいれば、人間は生きていける。逆に、周りが共感的に受けとめず、表面的な憐憫や哀れみだけしか示してくれないと、子どもはその苦しい現実を自分の内面深くに固く閉じ込めて生きていかなければならず、悩みはどんどん深刻化していく。
 エネルギーを正しく投入できる場があり、正当に評価される場があると、子どもは変わる。
 これって、大人だって同じことですよね。じっくり味わい深い、内容の濃い教育書だと思いました。さすがは38年間、小学校の現場で子どもとトコトン向きあった教師だけはあると思います。
(2011年10月刊。740円+税)

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