弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年1月 2日

すごい実験

宇宙

著者   多田 将 、 出版   イースト・プレス

 茶髪(金髪かな?)の先生が高校生を相手にニュートリノ実験について解説する本です。とても分かりやすくて、私も理解できました。いえ、もちろん全部というわけではありません。でも、科学の実験の壮大な展望は見えてきましたね、たしかに・・・。
茨城県東海村にある研究所からニュートリノをビーム状に発射して、295キロ先の岐阜県神岡村にあるスーパーカミオカンデでキャッチ検出する。
 ニュートリノを発射させる前に研究所のトラック(1周1.6キロ)を30万回まわらせる。たったの2秒で・・・。
 このような素粒子実験に耐えうる大規模な加速器をつくれるのは、世界で、日本とアメリカとヨーロッパの3ヶ所だけ。中国はあと30年たっても無理だ。日本には、世界最強・最高の加速器がある。
日本でノーベル賞をもらった18人のうち、物理学賞が化学賞と同じで7人。そのうち6人が素粒子物理学者。日本は素粒子物理学で世界最先端を行っている。
 粒子(陽子や電子)を砕くと、まず出てくるのがπ(パイ)中間子。これは寿命がとても短くて、数十メートル飛んだだけで勝手に壊れる。そして、つぶれて現れるのがニュートリノ。
 つくばの加速器はフルパワーで動かすと、1秒間に1000兆個のニュートリノを作ることができる。
 日本は加速器技術でも世界一。研究所は、夏7,8,9月の3ヵ月は止まっている。電気代が高いから。電気代は1年間で50億円もかかる。電子は急カーブを曲がるとき、放射光を出す。ここが電子と陽子の違いだ。
 電子は原子核のまわりを1秒間に6600兆回もまわる。あまりにも速いから、「どこにいる」という瞬間が見つけられない。
 原子は陽子と中核子の組み合わせから出来ている。だから、この組み合わせを変えたら、まったく異なる元素をつくることができる。すなわち、錬金術って、実は可能なのだ。しかし、とてつもない時間とお金がかかるので、錬金術は意味がない(採算がとれない)。
 宇宙みたいに大きな世界だと、1億年なんて短い時間である。素粒子の世界では、何分かというと、めちゃくちゃ長い時間なのである。
太陽は光とともにニュートリノも大量に出す。光は地球上に1平方メートルあたり1.37キロワット。これに対して電子ニュートリノは1平方米あたり600兆個来ている。人間の身体は1秒あたり600兆個のニュートリノを浴びている。この世の中に、ニュートリノは光に次いで多い。
カミオカンデは、1980年代に作られているので、もう30年ほどたっている。
 光の伝わる媒質は何らかの物質ではなかった。それは電磁場そのものだった。
 ニュートリノを研究して、それが今後の日本にどう役に立つのか。分からないとしか言いようがない。そうなんですね、いつ、どこで、どのように役立つのか分からないものって、世の中にはかなり多いですよね。
 高校生に分かるのなら、私だって・・・と思いましたが、現実はそんなに甘い話ではありませんでした。それでも、最後まで面白く、読み通しました。
(2011年10月刊。1600円+税)

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