弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年12月15日

小説・医療裁判

司法

著者   小林 洋二 、 出版   法学書院

 医療事故を扱った本ですから、すらすら読めて、分かりやすいとまではいきません。それでも、医療裁判がどうやって始まり、そこではどんなことが問題になるのか、裁判はどのように進行していき、そして終了するのかが、そこそこ分かりやすく、一緒に体験しているかのように語られています。その点は、初めて本を書いたとは思えないほどの著者の筆力に感嘆しました。
 新人弁護士が医療過誤と思われる件の相談を受けるシーンから始まります。当然のことながら、経験の乏しい弁護士は自信がなく先輩に応援を求めます。
 そこで登場するのが、医療問題研究会です。私も、実際、この研究会を利用させてもらっています。医師も参加している研究会のメンバーからの疑問・感想そしてコメントがとても実務に役立ちます。
 事件を受任してすすめるときには、この研究会の発行している「事件処理マニュアル」を活用しています。医師に責任があるかどうかは、その当時の医療水準との対比で決められます。相対的評価です。その点について、詳細な文献・調査が欠かせません。医療水準が日進月歩で変化しているのとあわせて、判例もどんどん進歩しています。
 さて、いよいよ裁判を起こすことになります。このときは、調査・交渉してきた弁護士2人に、もう一人加えて、3人で弁護団を組む。医療過誤事件を適切に処理するには、一定の経験と作業量が必要になるし、三人寄れば文殊の知恵ということわざに従う。
 医療過誤訴訟は早ければよいというものではない。迅速に負かされるのは、多くの場合、患者側である。
 医療過誤訴訟は、対等な立場の者の争いではない。相手は専門家であり、自分の立場を、その専門性で正当化しようとする。
 医療過誤訴訟で患者側が勝訴するのは30%台であったころより年々低下して、今では20%ほどにまで下がっている。
 この原因に「医療崩壊」キャンペーンが無関係だとは思えない。
日本の医師数は人口千人あたり2.1人。OECD諸国は3.1人。日本の国民医療費のGDPは8.1%、OECD平均の8.9%を大きく下回っている。それだけ医療にお金をかけていない。
 証拠調べのあったあと、裁判所は和解案を呈示しました。そして、和解は成立せずに判決に至ります。実に詳しく、裁判の実相が描かれています。これから医療過誤訴訟を扱ってみたいという若手弁護士にとっては格好の手引き書になると思います。続編が期待されます。シリーズでいきませんか・・・。
(2011年9月刊。1800円+税)

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