弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年12月13日

被爆者医療から見た原発事故

社会

著者   郷地 秀夫 、 出版   かもがわ出版

 この30数年間、被爆者の診療に携わり、2000人もの被爆者の健康管理に関わってきた医師としての体験にもとづく本です。
 著者は、放射線障害は軽微であり、原子力は有用だ、こんな考え方に日本人が気づかないうちに洗脳されてきたことに警鐘を乱打しています。
 1日で3発分の広島型原爆を燃やし、そのエネルギーで電気を起こしているのが原子力発電所なのである。原子炉の建屋内にある核燃料と放射性物質の量は790トンで、広島に落とされた原爆「リトルボーイ」の75キログラムの1万倍以上、とてつもなく多い量なのである。
 そうなんです。あの、すさまじい威力によって何十万人もの人々を一瞬のうちに地球上から消滅させた広島のピカドンよりも福島第一原発によって放出されている放射性物質のほうが、とんでもなく多いのです。信じられないけれど、これが事実です。少ない日本人がそれを早く忘れたがっているように思えるのが残念です。
 日本は原爆を体験していながら、被爆者に学んでいない。多くの日本人にとって、被曝は自らのものになっていない。
 シーベルト(Sv)は放射線の量を表す単位であり、ベクトル(Bq)は放射能を表す単位である。
 国は、内部被曝の影響は無視しえるというのが確立した科学的知見であると裁判で主張している。果たして、そう言い切れるのか?
 内部被曝は外部被曝と違って、同じ場所にとどまり、細胞の遺伝子に放射性を放出し続ける。 内部被曝とは、放射性物質が体内にある限り、ずっと被曝し続けることになる。そして、内部被曝は被曝線量を測定しにくい。
 2009年、長崎の被爆者の臓器標本が60数年たってなお、プルトニウムのα線を出し続けているのが確認された。うへーっ、これって、ものすごく怖いことですよね。プルトニウムにとって、数十年なんて経過はほんの一瞬なんでしょうね。何万年という年月を要して徐々に減っていくものなんですね。とても一個人の人間がどうにか出来るものではありませんよね。
放射線の感受性は、子どもは大人と比べて数倍から10倍以上も高い。そして、数十年後に出してくるであろう放射性障害にめぐりあう確率も高い。
 福島には中年以降、壮年以降ががんばっていくのがいい。子どもに福島に行かせることはない。そして、子どもたちに無理して安全だと言い切れないものを食べさせることはない。
 放射線物質は浴びないほうがいいこと、とりわけ子どもにとっては浴びないようにすべきだと提言されています。まことに、そのとおりだと思います。
 「今すぐ心配はない」というごまかしは許されません。
(2011年10月刊。1000円+税)

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