弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年12月 2日

日本のソブリンリスク

社会

著者  土屋剛俊・森田長太郎  、 出版 東洋経済新報社   

 なんだか難しいタイトルですし、ハードカバーの本ですから、数字にからっきし弱い私なんかが読んでも分かるものかな、そんな心配をしながら恐る恐る読みはじめましたのでした。すると、案に相違して、すんなり内容が頭に入ってくるのです。いい本でした。ぜひ、あなたもご一読ください。なにより、この本の結論がいいのです。
 日本経済の根幹である「内需」をないがしろにしては、持続的な経済成長を達成することはできない。日本の経済構造は、韓国や中国の輸出比率が40~50%達している状況とは、あまりにも異なる。中国や韓国の経済構造が「資材・部品を輸入・加工して、輸出する」という極端なまでの「輸出国家」であるのに対して、日本はあくまで「国民の消費」によって経済成長を達成してきた「内需」の国なのである。
 これは赤旗新聞によく出てくる日本共産党の主張とまったく共通しています。ところが、著者たちは次のように念のために断っています。
 私たちは、マルクス主義者でも、左翼的思想の持ち主でもない。
そこで、何歳くらいなのか、巻末を見てみると、1985年とか1988年に大学を卒業していますので、せいぜい40代の後半です。大学を出たあと外資系の銀行や証券会社にも勤め、日本を海外から眺めていた経験もありますから、視点はグローバルなので、とても説得的です。
 1980年代、中南米諸国におけるソブリン・デフォルトは、対外、対円をふくめて30件近くもあった。1980年代前半にボリビア、アルゼンチン、そして1980年後半のブラジル、ペルー、アルゼンチンでは、対外デフォルトと同時にインフレを招来した。
 これらの1980年代の中南米危機の根底にあった問題は、ブレトンウッズ体制下の安定的な国際通貨制度が崩壊したことに続けて石油ショックが発生し、グローバルな過剰流動性の発生を招いたことにあった。
 1990年代は、1980年代の51件に対して、ソブリン・デフォルトは19件と、数の上では大幅に減少した。
 1990年代に韓国で起こったことは、他のアジア諸国と同様に、先進諸国から短期資本が流入し、危機の発生とともに資本が急激に逆流するという現象であった。
 ユーロがスタートした当初から指摘されていたユーロの構造的な問題は、異なった生産性、インフレ率、そして財政政策をもつ国々を一つの通貨、一つの金融政策で束ねてしまうことの歪みであった。
 アメリカの住宅バブル崩壊の余波を受けて、2008年以降、東ヨーロッパからバルト海、アイスランド、アイルランド、そしてギリシャ、ポルトガルへと、ヨーロッパの周縁部分において危機は広がっていった。
  高齢化の問題は必ずしも日本のみの特殊事例ではない。先進国の主要民族は、おしなべて民族の最終的な成熟段階、すなわち「高齢化」のフェーズに入りつつある。
  高齢化の最大の問題は、国全体としての社会保障費を劇的に増加させること。
 日本では、「資金不足」がほとんど存在しない特殊な経済環境のなかで、日本の銀行は「金貸し」のビジネスを行わざるをえないという未曽有の事態に直面している。
 日本以外の先進国においても、最近では貸出需要の低速、あるいは「資金不足」あるいは「資金需要」の不足という新たな現象が1990年代以降の日本と同様に顕在化しつつある。
 日本の財政悪化の主たる要因は、行政府のコスト構造に問題があるのではなく、日本の財政問題の本質は、「所得再配分機能の不全」にあるとみる以外にない。
 日本の国民の受益水準は「大きな政府」であるどころか、先進国中で「最小の政府」となっている。「最小の政府」であるにもかかわらず、「最大の財政赤字」を発生させているのが、現在の日本の状況なのである。
 「政府規模の縮小」を目指すことで、国民負担を引き上げずにとどめようという政治的な主張が果てしなく続くことこそが、日本ソブリンにおける最大のリスクなのである。そもそも、削減すべき政府の規模は既にもう十分に小さい。要は、現在、政治が考えて決定しなくてはならないのは、国民間の最適配分の構造なのである。
 政府の投資は、まず何より国民生活の安定と健全な内需の創出を目指して行われるべきである。「健全な内需」なくして、持続的な経済成長と国民生活の向上はありえない。
 今回の原発事故から得られる重要な教訓は、「目先の費用を惜しんで、長期的なリスクを抱え込んではいけない」ということである。
まことに同感です。ちなみにソブリン・リスクとは、国家の信用リスク、つまり、国債の信用リスクを意味するものです。

(2011年9月刊。2800円+税)

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