弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2011年11月29日
非核兵器地帯
社会
著者 梅林宏道 、 出版 岩波書店
世の中には、核兵器を地球上からなくすために毎日こつこつと取り組んでいる真面目な人がいるのですね。安心すると同時に、畏敬の念にかられました。私も少しは見習いたいと思います。核なき世界への道筋というサブ・タイトルのついている本です。オバマ大統領のプラハでの演説によって世界の反核・平和運動が大きく盛り上がり、一気に核兵器廃絶へと突きすすんでいくかと期待していましたが、アメリカでは逆コース現象がひどくなり、ロシアでもかえって核兵器が増えているという報道があります。思うに、軍需産業と結託した政治勢力が巻き返しを図っているのでしょうね。
原発にしてもそうなんですよね。福島第一原発事故によって、ひとたび原発で事故が起きたら人類は何ものもなしえず、ただ逃げて遠ざかるしかないという恐ろしい事実が判明しました。ところが、今でも電気が停まったら今の快適な生活は保障されないんだぞ、原発事故なんて心配するなと日本経団連会長などは公言しているのですから、恥ずかしい限りです。放射能汚染によって日本に住むところがなくなったら「快適な生活」どころの話ではありません。なにより大切なのは「快適」の前に安全最優先です。
アメリカは変わらざるをえなくなっている。良質なアメリカは、もはや軍事力の果たす役割に限界があると確実に感じ始めている。他方、あまり質の良くないアメリカは、軍事最強国として軍の世界展開を維持することにこだわっている。心ない日本は、この方向にアメリカの背中を押しそうである。
心ある日本を何とか前に動かしたいというのが著者の願いです。私も、そのお手伝いができたら・・・と思います。
非核兵器地帯の設立は、理想(核兵器の廃絶)と現実(地域の安全保障)の追求と言う両面を兼ね備えた外交努力である。現在、非核兵器地帯条約は五つに増え、そこに含まれる国は118ヶ国、世界の人口の30%にあたる。
2007年4月、キッシンジャー元国務長官やシュルツ元国務長官などアメリカの著名な4人の元高官は『ウォール・ストリート・ジャーナル』に共同論文を発表した。
「冷戦の終焉によって、ソビエト連邦とアメリカ合衆国のあいだの相互抑止という教義は時代遅れのものになった。核兵器に依存することは、ますます危険になっており、その有効性は低減する一方である」
2009年4月、アメリカのオバマ大統領とロシアのメドベージェフ大統領は共同声明を発表し、冷戦後はじめて両国は核兵器ゼロという目的を共有し、世界に公言した。
しかし、今、私たちは核兵器世界のなかに住んでいる。核兵器世界のもっとも際立った特徴は、世界の軍事化である。
1970年に発行した核不拡散条約(NPT)は核軍縮に関しては何の足枷にもならなかった。1970年に世界には3万8千の核弾頭があったが、1986年には6万9千にまで増えた。今なお、地球上には2万以上の核弾頭が存在する。
現在、アメリカ、ロシア、フランス、イギリスには、あり余る兵器用の濃縮ウランやプルトニウムの在庫がある。現実世界には、核兵器に関して覆うことのできない既得権と物量の格差や不平等が存在し、それらの克服が常に問題となっている。
アメリカは戦略爆撃機を60機、核弾頭と巡航ミサイルを300発もっている。核任務パトロールはしていない。
ロシアは75機の戦略爆撃をもっており、それに搭載する8百数十発の核弾頭をもっている。さらに、ロシアは10隻の戦略原子力潜水艦を保有し、160基の水中発射弾道ミサイルを装備し、5百数十発の核弾頭を搭載している。
フランスは4隻の戦略原潜に64基の弾道ミサイルを装備している。そのための弾道数は240発である。インドは60~80発、パキスタンは90~110発の核弾頭をもつ核保有国である。
日弁連は2010年10月の宣言で東北アジア核兵器への支持を呼びかけた。
「東北アジア非核兵器地帯」条約が成立する過程が、すなわち北朝鮮が核兵器を放棄する過程にもなる。また、日本も核の傘から脱却する過程になる、という順序で考えるべきなのである。
なかなか貴重な提言が盛りだくさんでした。ノーモア・ヒロシマ、ノーモア・フクシマを今こそ声を大にして叫びましょう。
(2011年9月刊。1800円+税)
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