弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年11月22日

もう原発にはだまされない

社会

著者    藤田 祐幸 、 出版   青志社

 原子力発電所で炉心溶融事故(メルトダウン)を起こす原因はいくつもある。
 その一は、配管破断事故。何らかの理由で主蒸気配管が破裂すると、一瞬にして蒸気が噴出し、原子炉が空焚きになり、炉心溶融に突入してしまう。この大口経配管破断事故は過去に起きた実績がある。2004年8月に福井県美浜原発で起きた。
 もう一つは、全電源喪失事故。原子力発電でありながら、原発が停電したらどうなるかという問題。これが今回起きたわけだが、これまで、「停電になることは、ありえない」と国も電力会社も言い続けてきた。
 1980年、フランスのラ・アーグ核燃料再処理工場で、事故が起きて従業員があきらめ、「家族と一緒に死にたい」と帰宅していったという深刻な事態が発生した。このときは、近くのフランス海軍の兵士たちが決死隊をつくって突入し、電源を回復してポンプを回すことに成功して事なきを得た。もし、これが成功しなかったら、フランスからドイツまで深刻な放射能被害にあったはず。
 福島第一原発では、メルトダウンが起きていることは分かっていても、原子炉のなかで一体、何が起こっているのかは予測しがたい。しかし、原子炉が体をなしていないことは確実だ。
 福島第一原発事故では、「止める」ことには成功したが、停電のために「冷やす」ことに失敗し、相次ぐ水素爆発によって「閉じ込める」ことにも失敗した。
 原発建屋内で作業員が着ている防護服は、放射線に対してはまったく無力。防護服は放射性物質が身体に付着しないように加工してあるだけ。被曝を避けるためなら、厚さ5センチもの鉛の鎧を着なければならない。それでは重すぎて、とても仕事にならない。なんと、あの防護服は放射性物質が付着しないように加工されているだけだというのです。これでは心配ですよね。
 そのうえ、政府は福島原発について内部補修を行う労働者の被曝濃度を50ミリシーベルトから100ミリそして210ミリシーベルトに上げていった。
 内部被曝は長期間に免疫力や抵抗力を低下させかねない。
 原発事故の本質、それに至るまでの問題が見事に整理されています。読みすすめるのが恐ろしいのですが、目をそらすわけにはいきません。政府・東電が工程表を発表して、何となく事故対策が進んでいる気にさせられていますが、今も放射能が空中そして海中・地中に拡散しているのは事実です。原発は一刻も早く日本から廃絶するしかありません。
(2011年8月刊。1500円+税)

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