弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年11月18日

死ぬという大仕事

社会

著者 上坂冬子、 小学館 
 
 作家である著者はがん闘病記を連載しつつ、2009年4月14日、78歳で亡くなりました。
 2005年に卵巣がんが発見されて手術して切除したあと、強い副作用に苦しみながら抗がん剤治療に耐えて、いったんは元気な体を取り戻した。しかし、がんは3年後に再発し、2008年10月、慈恵医大病院に入院した。そこでは緩和ケアを受けることになった。
担当医は次のように語る。
 「がんという病気は、進行するのにある程度の時間がかかる。だから、患者に早い段階で告知し、その後の治療や人生をどう設計するか、じっくり考えてもらうことが必要だ」
 なるほど、と思います。
 緩和ケアが患者より良い人生を考えた全人的治療であるためには、医師には医学の知識だけではない洞察力や人間性が求められる。そしてまた、患者の側も、医師を信頼し、希望を持ち続けることが大切だ。なるほどなるほど、よく分かります。
  ホスピスケアと緩和ケアには決定的には違いがある。ホスピスに入るのは、もう手の施しようがなくなってからのこと。しかし、緩和ケアは、もっと積極的なケアを提供する。
がんの告知を受けた患者はいくつかの心理ステップを踏んでいく。はじめは否認。次は怒り。そして取引が始まる。そのあと、抑うつの時期を経て、最終的に受容という状態になる。あるがままを受け入れようという気持ちになる。
 いやあ、そうはいってもこればかりは、なかなか受容の境地にはなれませんよね・・・。
 腫瘍は、あるところを越えて、加速度的に病状が進むようになると、年齢には関係なく、手がつけられない状態になる。腫瘍は徹底的に自分本位で、自分だけが大きくなろうとする。
 余命が1ヶ月以内だと医師は分かるが、それ以上だと医師の予測はほとんど当たらないというデータがある。それくらい個人差が激しい。
 女性は枯れ木がしぼんでいくような亡くなり方をするのに対して、男性はポキッと折れるような亡くなり方が多い。
 うむむ、こんな表現ができるのですか・・・。
 抗がん剤は効かないことも多いが、それでもだらだら治療を受けている患者がいる。
 患者は、身体がつらくても、希望が持てるから精神的には楽。このため、医師と表面的には利害が一致することになる。
医師であっても、自分の父親に抗がん剤を使ってしまう。副作用が辛いと分かっていても。なぜなら患者も家族も希望をもっていたいから。また、製薬会社が抗がん剤をできるだけ広めようとしている影響もある。
著者は緩和ケアのおかげで、途中で好きなフランス料理を味わって楽しめるようにまでなったのでした。抗がん剤の副作用に苦しんで、歩けなくなったり、吐気がひどくて食事もできないというのでは、どれだけそんな生活に意味があるのか考えさせられますね。
 すごい闘病記でしたが、著者のあっけらかんとした書きっぷりに惹きこまれて一気に読了しました。
         (2009年9月刊。1200円+税)

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