弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年11月16日

これでいいのか小中一貫校

社会

 
 著者 山本由美・藤本文朗・佐貫浩、 新日本出版社 
 
 小中一貫校がもてはやされています。公立学校でのことです。本書を読んで、その狙いの一つが大規模校舎をつくることにあるのを知って、なんだゼネコンのための大型箱モノづくりの一つなんだと知りました。
 教職員の人件費は切り下げて、建設費は一挙に上げようというのです。まさしく「人から施設」です。教育の分野でまで、そんなことをしてほしくありませんよね。
 品川区は小中一貫校をすすめているが、職員給与比率は20%から12.7%へと劇的に低下した。その代わりに、投資的経費は12.8%から28%へと倍以上に増えた。
 新校舎の建設費は30億円から60億円という多額である。これは都市再開の起爆剤と位置付けられている。
 大阪、箕面市では、小中貫校はPFI方式で運営される。民間資本の活用による公共施設の設備・運営である。
 うへーっ、教育まで企業のもうけの対象にされるなんて、とんでもないことです。
 横浜市は小中一貫校の一校目が不調だったのでトーンダウンしたが、全国では東京・兵庫・宮崎・大阪・京都・栃木において複数の市が実施している。
 早くからエリート校をつくってエリートを選別していくという思想にもとづく動きだ。よりわける、け落とす、あきらめさせるという選別と競争を進める役割を果たすものだ。
 小中一貫校で、生徒の「荒れ」がひどくなっているという報告もある。
 小中学校教育文化の大きなメリットの一つはクラス担任制である。それが小中一貫校では教科担任制の導入となる。
 小学5年生、6年生は、全校のリーダーとしての誇りと責任意識を身につけさせることで、社会的自立に向けて育てると位置づけられてきた。小中一貫校ではそれが出来なくなってしまう。
 私は、これって大きいことだと思いました。中学生がいないからこそ小学校の最上級生としての誇りがあり、責任感がまっとうできるのです。小学校でそれなりの自信をつけることの意味は決して小さくないと私も思います。
 中学校的文化は小学生の段階をきちんと経てから体験をさせたいものです。
 異なる学校文化を持つ小学校と中学校とのあいだを移行する過程において、子どもは発達的な適応と再適応を求められる。
 そして、小中一貫校では学区が広域化することになりがちです。学校統廃合がなされたとき、地域との結びつきを絶たれて、子ども達がバス通学するようになるのです。
 校区が広がると、友だちと簡単に遊べず、遊びを通して地域を知る機会も減る。親たちも子どもの生活を見守るのが難しくなる。学校と地域との関係は重要である。私もそう思います。身近で遊べる環境を子どもたちから奪うなんて罪つくりなことです。
 教育がエリート層を育てることにあるなんて財界が言うだけと思っていました。しかし、橋下大阪府知事(当時)が言い出し、多くの府民がそれを支持しているというのです。我が子だけはなんとかしてエリート層にもぐり込ませたいという親の願望にかなったものなのでしょうが、全員がエリートになれるはずはありません。そんな幻想をきっぱり捨てて、みんな違って、みんないい。このような豊かな個性が尊重される教育でありたいものです。
         (2011年9月刊。1600円+税)

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