弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2011年10月27日
公安は誰をマークしているか
警察
著者 大島 真生 、 出版 新潮新書
公安警察というと、今でもなんだかうす汚い、陰でコソコソ、スパイをあやつっている陰気な集団というイメージがあります。
かつては共産党をスパイし、企業に共産党員情報を高く売りつけて存在意義を誇示していました。ところが、今では企業内での露骨な差別待遇が裁判所によって弾劾されてやりにくくなり、公安警察の存在意義もすっかり薄れてしまいました。とりわけ公安調査庁という、人間の盲腸みたいに不要な機関が今でも残っているのは常識では理解できないところです。
警視庁公安部は、公安警察最強の実働部隊で、「公安の中の公安」とも言うべき存在。桜田門にそびえる18階建ての警視庁本部庁舎の13階から15階まで、3フロアーを占めている。公安部の人員は1100人。このほか各警察署の警備・公安担当が1200人いる。
公安警察は、警察庁警備局を中心に、戦前の特高警察時代のシステムを密かに残している。それは、たてまえとして自治体警察だが、警視庁公安部や道府県警警備部は予算を握る警察庁警備局から直接指示を受ける立場にある。上意下達の国家警察システムがそっと残されているのかが公安警察である。指示系統は、縦に統一されていて、そのなかには道府県警本長や警察署長は入っていない。つまり、署長の部下という意識は希薄だ。
警視庁の刑事は、公安部員を「ハム」と侮辱的に呼んでいて、「ハムの奴らは信用できない」と、よく口にする。これに対して、公安部員は、自らを「オレたちは国を守る仕事をしている」という意識が強く、刑事警察より高い次元にいるというプライドを持っている。
公安総務部(コウソウ)は公安部の筆頭課であり、共産党対策を主とする。公安部の部長、参事官2人、総務課長の4首脳のうち3人はキャリア組で、残る1人は「たたき上げ」と決まっている。
公安部はスパイをつくる作業に従事している。この作業は警察庁警備局が報告を受けながら管理している。公安部の作業班の名称は4係、ナカノ、サクラ、チヨダ、ゼロと変遷した。
スパイ(協力者と呼ぶ)にできるかどうか、何度か会って感触を確かめるのを「面接」、協力者にスパイ活動させることを「運営」するという。協力者と密かに会うことを、「接触」、運営にかかる資金は「運営費」、接触にかかる資金は接触費用などと呼ぶ。運営費とは、要するに報酬だ。接触費用は協力者に飲み食いさせる代金である。
公安の担当範囲は、近年恐ろしく広くなっている。NHKの次期会長候補にスキャンダルがないかまで調査にあたった。公明党情報をふくめて、幅広く政治家などの情報を集めている。ただ、これも肝心の共産党の活動が下火になったため、組織を維持するために対象範囲を広げざるをえなかったということにもある。
一般には知られざる公安警察の活動の一端を知ることのできる本です。
(2011年9月刊。720円+税)
今、全世界で「1%が支配する社会でいいのか」という問いかけとともに若者たちが行動を起こしています。日本ではまだまだ動きが鈍いのがもどかしくてなりません。
ところで、先日の新聞に日産のカルロス・ゴーン会長の年間報酬が9億8200万円であり、これは昨年より9100万円もの「賃上げ」があったこと、ソニーのハワード・ストリンガー会長は8億6300万円で、これまた昨年より3850万円も「賃上げ」されていることが報じられていました。ひどいですよね、許せませんよね。「99%」の労働者には賃下げ、首切り、非正規雇用を押しつけておいて、自分たちは8億円とか10億円近い年収をもらっていながら、さらに9千万円とか4千万円近く「賃上げ」をお手盛りで決める。これは異常な社会と言うべきではないでしょうか。もっと私たちは怒るべきですし、怒りを行動に示すべきだと思います。