弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年10月 6日

ヒトラーの最期

ロシア

著者  エレーナ・ルジェフスカヤ  、 出版  白水社   

 ソ連軍の若き女性通訳がソ連軍とともにベルリンに攻め入り、そこでヒトラーの遺骨を手にするまでの過程が詳細に記述されている貴重な大作です。ヒトラーの遺骨を入手しながらも、スターリンはヒトラー逃亡説を発表させたり、ヒトラーの遺骨を入手していたことを隠していたというのですから、不思議な話です。
 著者はモスクワの大学生から通訳になったユダヤ人女性です。よくぞスターリン圧制の犠牲になることなく、生きのびたものです。
 ドイツ軍兵士を捕虜としたとき、士官だったらドイツ軍側から見たソ連軍の長所を尋ねることが義務づけられていた。その答えは、T-34戦車、兵士の頑強さ、ジューコフだった。ソ連軍兵士が粘り強く戦うのには、ナチス・ドイツ軍の将兵も驚嘆していたようです。
ドイツ軍のバルバロッサ作戦を狂わせた原因の一つに、小国ギリシャが意外に抵抗したことがある。うひゃあ、そういうこともあったんですね。
著者は前線で入手したドイツ軍将校の日誌を引用して、戦闘の悲惨さを語らせています。
 ドイツ軍兵士の心得。きみには心、神経がない。戦争ではそれらは無用である。すべてのロシア人を殺せ。きみの前に老人、女性、子どもがいても止まるな、殺せ・・・・。
 ポーランドではワルシャワの手前でソ連軍は留まり、ワルシャワ蜂起が目の前でナチスドイツによって無惨にも鎮圧・虐殺されているのを座視します。スターリンの冷酷な計算による行動です。
 敵の手紙は前線では常に重視された。それらの手紙には何か重要なこと、ときには予想外に重要なことが含まれていることが珍しくなく、これをもとに諜報資料が作り上げられた。手紙には、気分、事実、雰囲気、出来事、希望、状況、不安、脅威、苦境、変化が含まれている。
 ドイツ軍は敗色濃いなかで、新型兵器にいちるの望みをかけていた。しかし、それを信じていない兵士もまた多かった。ロンドンを空襲したV・ロケットのようなものをヒトラーは匂わせていたのでしょうね。
 ヒトラーには影武者はいなかった。5月4日、ヒトラーと妻エヴァ・ブラウンの遺体は一度発見されたが、そのときは識別されなかった。そして、あとで、同じ穴の中に2匹の死んだ犬が発見されたが、このこともヒトラーの遺体だと判明するのに役立った。ヒトラーは青酸カリの効用を試すために、先に愛犬に使ってみたのでした。
 5月6日、総帥官邸の庭からヒトラーとエヴァ・ブラウンの焼けこげの遺体をシーツにくるんで運び出した。
 ヒトラーは4月29日深夜、エヴァ・ブラウンとの結婚式を行った。ところが、そのときヒトラー自らが取り決めた結婚にあたっての必要書類は無視された。ヒトラーは、戦争に敗れたとき、ドイツ人は生きるには値しないとしていた。
 ゲッペルスは浮気者であり、妻は離婚したがっていた。しかし、ヒトラーは離婚を許さなかった。そこで、彼らはドイツ国民の前では模範的な子沢山の家庭を演じていた。
ヒトラーは最期にこう言った。
私の死後、私の遺体は焼却されねばならない。私は自分の遺体が後に見世物にされるのを望まない。
これは、ムッソリーニがパルチザンに銃殺され、ミラノの広場で逆さ吊りにされたことをヒトラーが知っていたからの言葉である。
ヒトラーの遺骸には、顎骨と歯がそのまま残っていた。そして、著者は、ヒトラーの歯の入った小箱を預けられた。そして、この小箱に入った歯をヒトラーが生前にかかっていた歯科医(助手)にみてもらって確認した。
 ヒトラーの死(自殺)の状況が確認される状況は信頼できると思いました。
(2011年6月刊。4000円+税)

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