弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年9月28日

朽ちていった命

社会

著者   NHK取材班 、 出版   新潮文庫

 1999年9月30日、茨城県東海村の核燃料加工施設JCOで起きた、とんでもない事故によって被爆した労働者のその後の死に至るまでの状況を詳しく明らかにした本です。
 放射能の恐ろしさが実感をもってよくよく伝わってきて、読んでいるだけでゾクゾクし、ついには鳥肌が立ってきました。
 この日、臨界事故が発生し、東海村付近の住民31万人に屋内退避が勧告された。
 村に「裸の原子炉」が突如として出現した。まったくコントロールがきかないうえ、放射能を閉じこめる防御装置もないというもの。19時間40分にわたって中性子線を出し続けようやく消滅した。
 被爆した労働者は溶解塔の代わりにステンレス製のバケツを使っていた。もちろん違反行為である。バケツだと洗浄が簡単で、作業時間が短縮できるというのが理由だった。
 放射能被曝の場合、たった零コンマ何秒かの瞬間に、すべての臓器が運命づけられる。全身のすべての臓器の検査値が刻々と悪化の一途をたどり、ダメージを受けていく。放射能によって染色体がばらばらに破壊されてしまう。染色体はすべての遺伝情報が集められた、いわば生命の設計図であるので、染色体がばらばら破壊されたということは今後新しい細胞は作られないということ。被曝した瞬間、人体は設計図を失ってしまったということ。
 うへーっ、これは恐ろしいことです・・・。
 皮膚の基底層の細胞の染色体の中性子線で破壊されてしまい、細胞分裂ができない。新しい細胞が生み出されることなく、古くなった皮膚がはがれ落ちていく。体を覆い、守っていた表皮が徐々になくなり、激痛が襲う。
 腸の粘膜は血液や皮膚とならんで、放射能の影響をもっとも受けやすい。
 腸の内部に粘膜がなくなると、消化も吸収もまったくできない。だから摂取した水分は下痢となって流れ出てしまう。
 被曝して1ヵ月後、皮膚がほとんどなくなり、大火傷したように、じゅくじゅくして赤黒く変色した。皮膚がはがれたところから出血し、体液が浸み出していた。全身が包帯とガーゼに包まれ、肉親もさわれるところがない。ガーゼを交換するたびに皮膚がむける。そして、まぶたが閉じなくなった。目からも出血した。爪もはがれ落ちた。
 出血を止める働きのある血小板を作ることができなくなっているため、腸の粘膜がはがれると、大出血を起こしてしまう可能性が高い。
 下血や皮膚からの体液と血液の浸み出しを合わせると体から失われる水分は1日10リットルに達した。
 心拍数は120前後。マラソンをしているときと同じくらいの負担が心臓にかかっていた。
 そして、被曝から83日で35歳の労働者は死に至った。遺体は解剖された。全身が大火傷したときのように真っ赤だった。皮膚の表面が全部失われ、血がにじんでいる。胃腸は動いていなかった。粘膜は消化管だけでなく、気管の粘膜までなかった。骨髄にあるはずの造血幹細胞も見あたらない。筋肉の細胞は繊維が失われ、細胞膜だけ残っていた。ところが心臓の筋肉だけは放射能に破壊されていなかった。
 放射能の恐ろしさは、人知の及ぶところではない。
 福島第一原発事故で、メルトダウンした核燃料棒が今どういう状態になっているのかも明らかでないのに、野田首相は産業界の圧力に負けて、国連で原発輸出は継続すると明言してしまいました。放射能の恐ろしさ、怖さを首相官邸にいると忘れてしまうようです。残念です。情けないです。
(2011年9月刊。438円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー