弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年9月20日

脳科学の教科書

著者   理化学研究所 、 出版   岩波ジュニア新書

 ジュニア新書というから、ごく平易な脳科学の手引き書かと思うと、実はなかなか難解な解説書ではありました。いえ、ケチをつけているのではありません。脳科学の最新の到達点が学べる本ではあるのです。それだからこそ、私にとっては少々難しすぎるところもあったというわけです。
 人間の脳には、1000億個のニューロン(神経細胞)が存在する。
 構造的にも機能的にも、「やわらか」であるという点において、脳は非常に優れたコンピュータであると言える。
 大脳皮質のしわを広げると、新聞紙一枚分の面積になる。
 5つの感覚系のうち、嗅覚だけは異なった道筋をたどって大脳へ入ってくる。視覚と聴覚が密接な関係にあるのは日ごろ実感しています。一生懸命に本を読んでいると、耳に栓をしたように聞こえなくなることがしばしばだからです。臭いについては、かなり鈍くなっていることも認めます。花の香りも、よほど鼻を近づけないと分かりません。
 人間の小脳には、600~800億個の顆粒細胞が存在している。これは、中枢神経系の全ニューロン数の7割を占める。ニューロンの主要な機能は外部から情報を受けとり、電気信号に変換し、標的細胞へと伝達すること。
 樹状突起がもっとも高度に枝分かれしたニューロンは小脳のプルキンエ細胞であり、ひとつのプルキンエ細胞の樹状突起には10万個以上もの入力端子が接続している。
 ニューロン情報の伝え方には、二種類ある。一つはニューロン内部での興奮伝導、もうひとつはシナプス伝導。前者は電気信号による伝搬、後者は化学物質を介した伝導である。
 ここで伝搬と伝導の使い分けられていることに注目します。ニューロン内部での情報伝導のために、ニューロン自身が電気信号を発生している。電気信号を使って情報を伝えるという性質に関しては、脳とコンピュータは類似している。
 ニューロン内部では、電気信号によって興奮が伝わっていくが、ニューロンとニューロンのあいだでは、ほとんどの場合、化学伝達によって情報は伝えられる。この化学伝達は、脳に固有のものである。
 シナプスにおける主役は、神経伝達物質である。興奮性ニューロンで働いている神経伝達物質は、グルタミン酸。これがなくては脳はまったく機能できなくなるというほど、グルタミン酸は重要な興奮性神経伝達物質である。
 人間の脳幹は、爬虫類脳だという概念は、現在崩れている。基本的な脳の領域は、どの脊椎動物でも共通だと考えられている。
 最近の研究で、大人の脳の中にも、新たなニューロンを生み出す能力をもった細胞「神経幹細胞」が存在することが分かってきた。
 人間は350種類の、マウスは1000種類もの匂いセンサーの鼻の奥にもっている。
 運動をつかさどるのは小脳で、知能をつかさどるのは大脳だと言われることがあるが、これは誤りだ。脳神経系は、全体としてネットワークを形つくって機能を発揮する。ひとつの機能をひとつの脳部位にあてはめる単純化は誤る。
 PTSDは、忘れることができなくなるのではなく、安全だという新しい記憶を獲得することができなくなる症状である。PTSDの症状を抑えるには、D・ミクロセリンという薬が効果的。この物質は、記憶の形成にかかわることを説明してきた、NMDA受容体の働きを強める物質なのである。
 人間という存在が、いかに複雑なものであるかがなんとなく分かってくる良書です。
(2011年4月刊。980円+税)

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