弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年9月18日

身も心も

人間

著者   盛田 隆一 、 出版   光文社

 75歳の老人が妻に先立たれて茫然としているなかで、絵画サークルに入っているうちに女性と親しくなっていくストーリーです。
 老いらくの恋もいいかな、なんて思いながら読んでいると、とんでもない現実が二人それぞれに重たくのしかかってきます。優しく話を聞いてくれる女性のほうにも、なかなか他人には言えない辛い過去がありました。
 男性の方は、老いらくの恋が息子夫婦に発覚すると、財産の帰属を心配されたり、世間様に恥ずかしい、みっともないなどと冷たい仕打ちを受けてしまいます。私が弁護士として現実に受任したことのあるケースによく似ています。子どもは大きくなると、親の遺産を我が物であるかのように錯覚し、第三者の介入を許しません。恋愛感情は打算だけで成り立っていると警戒するばかりです。
 そして、なにより最大の問題は頭と身体の老化です。次第に自分への自信を失います。現実に病気に倒れてしまうことが起きます。そうすると、必要なのは介護です。誰が介護してくれるのか、その費用は持ち合わせているのか・・・。深刻な現実が迫ります。
制限時間迫る、高齢者の恋愛が炙り出すものは。
 これが本のオビに大書されているサブタイトルです。そうなんですね、若いときとは違って、制限時間が迫っているというわけです。それでも、いくつになっても若者のように素敵な恋をしたいものです。そう思いませんか・・・。
(2011年6月刊。1200円+税)

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